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資産配分と資産選択 -Perverse Boy-

2014年06月27日

安倍政権の成長戦力の一つとしての年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用見直しについて金融市場からの非常に関心が高いことはご案内の通りです。その中でも一番関心を集めている点は資産構成の見直しで、特に現在保有比率が17%程度の国内株式の比率が22%まで引上げられれば日経平均株価は2万円まで上がるというバラ色のシナリオもあります。

GPIFとは厚生年金と国民年金の基礎部分の運用を行っており、その運用資産総額は128.6兆円と世界最大規模の年金基金です。

日本の年金基金は公的/私的を問わず、資産配分(アセット・アロケーション)の際に用いる資産分類(アセット・クラス)を、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式そしてその他(オルタナティブ資産等)としています。GPIFも全く同様です。

年金基金のアセット・アロケーションとは、上記の主たる4つの資産の期待リターンと期待リスク(各アセット・クラスの標準偏差)そして各アセット・クラス間の相関(共分散)をもとに最少のリスクで目標リターンを達成できる資産配分を古典的な平均分散法という手法を用いて算出したものです。インプット段階で内外債券の期待リターンを相対的に低めにすれば、結果として内外株式のウェイトが高くなるわけでして、誰もが個別アセット・クラスの正確な期待リターンを予測できないなか、失礼ながら言ってみれば鉛筆なめなめ的なことをやってアセット・アロケーションを決めているのが現実です。

しかしながら、上記4資産分類とそのアロケーションという考え方に拘泥している限りは、まともな年金基金運用の改革などとうできないというのが筆者の考えです。

当たり前のことですが、資産配分の前にはるかに大事なことは資産選択(アセット・セレクション)ですから、何故、今日本株を投資先として選択するのかということを明確に説明することが必要だと思います。年金基金は受益者(国民)に対する説明責任を負っているのですから。資産配分の云々の前に資産選択を誤ったら、みすみす資産を減らすだけということくらいちょっとでも運用や投資を行ったことがある方ならお分かり頂けると思います。

そもそも年金基金の役割とは現在および将来の年金受給者の購買力を一定程度維持させるものです。そのためには安定的に基金の運用資産を増やしていくことが必要になります。それを実現するには将来に亘って安定的にキャッシュインフローを確保しなくてはなりません。

その際、私が基金の運用責任者で完全にフリーハンドを持てるのなら(政治的圧力等を受けないのなら)、過去20年以上に亘り現金配当の金額が成長し続けてきた、また将来の成長の蓋然性が高い真のグローバル企業で流動性に問題ない銘柄を集中的に買いたいと思います。現金配当が成長し続けてきた企業というのは、潤沢なフリーキャッシュフローを創出し続けてきた企業と言い換えることができます。

企業が提供する商品やサービスをお金を出して買う主体はあくまでも人間であり、決して動物や神様ではありません。人類が存在する以上決してその需要がなくなることがない衣食住に関する商品やサービスを、地球上のあらゆる所で提供でき、それもこれから人口が増え購買力が増大すると予想される新興国でビジネスを根付かせることができる真のグローバル企業はこれからも安定的に潤沢なフリーキャッシュフローを創出していくでしょう。そのような企業は欧米に多いので実際の運用としてはそれらの企業の株式を為替ヘッジして買いたいと思います。そしてその潤沢な配当金を再投資していけば複利効果も効きます。

一方、先程申し上げた4資産クラスには各々、運用成果を計測する指数が採用されています。国内株式の場合はTOPIX(東証株価指数)やJPX日経400が使われます。バブル崩壊以降、日本株は低迷し続けてきたと言われました。確かに日経平均やTOPIXを見ると日本株は下落していたように思われます。しかしながら実際は2002年末から2012年末までの10年間で約66%もの上場株式の価格は上昇しているのです。株価指数というのは一種の共同幻想のようなものでして、指数に拘泥している限り実は正しい現状認識ができなくなってしまうものなのです。残念ながら現状を鑑みると、年金基金、特に公的基金は少なくとも向こう5年間は現在と同じ資産分類と指数を採用し続けるでしょう。それゆえ私のような意見が採用される可能性は小さいでしょう。

GPIFが日本株のウェイトを引上げることによって短期的には日本市場は恩恵を受けるかもしれません。それをもって成長戦略は成功したと喧伝して政治的な点数稼ぎをする人も少なくないでしょう。しかしそのあとはどうなるのか?神のみぞ知るでしょうが、年金基金本来の役割であるとか存在意義を踏まえた、運用オリエンテッドの議論が出来ていないのが非常に残念です。だって我々の大事なお金であるのですから。


Written by Perverse Boy

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