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アナリストコラム

「やりくり上手」で世界を駆け抜けろ、国内自動車メーカー -高田悟-

2008年09月05日

一昨日、米国の8月新車販売統計が発表された。その中で過去も含め注目される数値を3つ並べる。(1)124万台(▲15%)、(2)08/3月(68万台/69万台)→08/4月(66万台/61万台)、(3)カムリ(2位)、アコード(4位)、シビック(5位)。まず(1)は乗用車とトラックの合計販売台数だ。前年同期に比べ15%減少した。前年割れは10カ月連続だ。このペースが続くと今年の新車販売は1,450万台程度となる計算である。昨年の1,646万台、一昨年の1,704万台から大幅な減少となる。
(2)は左側が乗用車、右側がトラックの販売台数を示す。本年4月に月ベースで初めて逆転した。以降はこの傾向が加速。ちなみに米国ではピックアップトラック、多目的スポーツ車(SUV)などはトラックに分類される。最後に(3)は新車販売(乗用車+トラック)ランキングである。5位以内に日系乗用車3台が入る。1位と3位はフォードとGMのピックアップトラックで不調と言われてもトラック系の存在の大きさがわかる。

統計からガソリン高騰とサブプライムローン問題が市場を直撃している様子が窺われる。また採算の良いトラック系大型車から小型乗用車系へのシフトが続く。大型車を中心に在庫が溜まり中古車市場の価格も下落。米国ではリースが一般的
であるためリース期間満了後のリース車両の残存価値下落もカーメーカーを悩ませる。こうした影響をまともに受けているのがビッグ3だ。日系カーメーカーにとっても米国市場の不振は円高、原材料高と並び大きな痛手だ。これまで米国市場に根を張り大型車中心の供給、販売体制を確立することで業績を伸ばしてきたからだ。低燃費が好まれ小型乗用車の需給は逼迫している。そこで米国でのプレイヤーは皆小型車生産強化に大きく舵を切った。プレイヤーの米国市場に関するコンセンサスは(1)中国が伸びているとは言え世界最大の重要市場である。(2)やがて景気も回復、人口増加も続く中1,600万台程度までは需要は戻るだろう。(3)低燃費車への流れは構造的な変化である。(4)ただしガソリン価格が大幅に下がれば大型車への需要もかなり戻る。(5)従い小型車への生産体制完全シフトにはリスクが残るなどである。だから目下は売れない車の生産を抑え、在庫を減らし、売れ筋の車を一刻も早く造り、この市場で収益機会を逃さないことがプレイヤーにとっての最大の関心となっている。

先日トヨタの経営会議に出席させていただいた。米国市場への対応として現在建設中の工場は当初計画のSUVからハイブリッド車「プリウス」生産へ変更、フルサイズのピックアップトラック生産は一箇所に集中、また、同系統の車種を柔軟に生産できる工場を設置、どうしても足りない車種は外からもってくるという戦略が示された。以上需要に応じた最適な生産体制の構築に関して渡辺社長が「トヨタはやりくり上手を目指す」と表現していたことが強く印象に残っている。
またホンダは「完全フレキシブル生産」という戦略を打ち出した。要は需要が大型車から小型車、小型車から大型車とどのように変動しようとも対応できるように生産体制を進化させるという内容だ。乗用車とトラックでは生産工程が異なるため製造ラインを両方へ対応できるよう改造するのはかなりハードルが高い。それでも他がやらない新しいことにチャレンジするのはいかにもホンダらしい。

これまで北米市場をドル箱に順調に業績を伸ばしてきた国内カーメーカーだが米国市場の不振に加え、継続的な原材料高、脱ガソリン、環境、そして新興国のモータリゼーションへの対応と様々な課題に直面している。こうした多様な課題を克服できなければ世界的なプレイヤーとしての生きのこりは難しいだろう。その意味で国内カーメーカーはこれまでの成長路線が継続できるかどうかの大きな岐路に立っていると言えよう。自動車アナリストとしてはかつての貿易摩擦や円高を克服した教訓を活かし「やりくり上手」で今後も世界を駆け抜けて欲しいと願って止まない今日この頃である。

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