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おしえてアナリスト

最近の抗癌剤開発状況 ~抗癌剤は本邦では最も成長力がある領域の一つ~

Q 質問

武田薬品工業(4502)の抗癌剤べクティビックスが発売されたとのことですが、その詳細と販売見通しを教えてください。この他、中外製薬(4519)、エーザイ(4523)などが癌領域に注力していると聞きますが最近の開発状況と株価への影響を教えてください。

A 答え

ご質問有難うございます。本題に入る前に本邦での癌罹患状況を見ますと、07年の死亡者数は約33万人(男20万人、女13万人)と死亡原因の第一位となっております。死因別には、肺癌、胃癌、結腸・大腸癌、肝臓癌、膵臓癌、胆嚢・胆管癌、食道癌、乳癌、前立腺癌の順となっています。これに対応して数多くの抗癌剤が開発されていますが、本邦医薬品市場での広義の抗癌剤の市場規模は09年において約7,150億円と医療用医薬品市場の10%程度と推定されます。しかし癌領域の伸びは高く、例えば本邦トップ(国内市場シェア17.3%)の中外製薬の癌領域売上高は678億円(06年)→740億円(07年)→1,023億円(08年)→1,237億円(09年)→1,402億円(10年計画)と2桁増が続いています。抗癌剤は本邦では最も成長力がある領域と言えそうです。

上記ベクティビックスは米アムジェンの創製による抗体医薬(ヒト型抗EGFRモノクローナル抗体)で治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌に対して10年4月に承認されました。先行している同系の抗体医薬である中外製薬のアバスチン(抗VEGFヒト化モノクローナル抗体、07年6月発売)の09/12期売上高は349億円に達し、09年11月には非小細胞肺癌にも適応が承認され、さらには乳癌(申請中)、胃癌(フェーズⅢ)も承認される可能性が強く年商500億円を超える大型製品となりそうです。ベクティビックスはKRAS遺伝子野生型の患者のみに使用が限定されますが、治験ではアバスチンに劣らない効能が認められているため2~3年内に200億円を超える製品になるものと予想されます。武田薬品工業にとっては前立腺癌治療剤リュープロレリン(10/3期国内売上高671億円、92年9月発売)に次ぐ抗癌剤となりそうです。なおKRAS遺伝子の臨床検査の保険適用が10年4月から認められました。

エーザイは同社創製の乳がん治療剤エリブリンを10年3月、日、米、欧で同時申請しました。日本においては手術不能または再発乳がんを適応としています。米国も少なくとも2種の化学療法による前治療歴のある再発性乳がんへの適応(サードライン)です。グローバル3市場のうち米国は、年間約18万人の乳がん患者発症、約4万人が死亡、罹患歴のある患者数約250万人と多いので、サードラインとは言え相応の需要が見込めそうです。エーザイは最大10億ドルの売上を期待していますが、この水準に達するには相当時間がかかると予想されます。但しこの製品は複雑な化学構造を持つため特許が切れてもジェネリック版は出難いと見られています。なお本邦トップの乳がん治療剤は中外製薬のハーセプチン(抗HER2ヒト化モノクローナル抗体、ロシュ製品)で09/12期本邦売上高は297億円です。

最近大手医薬が続々海外のバイオベンチャーを買収しているのも癌領域への注力と見なすことが出来ます。①エーザイはMGIファーマ(買収総額約39億ドル、07年12月契約)、②武田薬品工業はミレニアムファーマシューティカルズ(同88億ドル、08年5月)、③アステラス製薬(4503)はOSIファーマシューティカルズ(同40億ドル、10年6月)などが主な案件ですが、この他エーザイによるモルフォテック、武田薬品工業によるアムジェンの日本法人、第一三共(4568)による独ユースリー・ファーマなどの買収も抗癌剤開発をターゲットにしていると考えられます。MGIの主力製品は癌化学療法時に使用される制吐剤アロキシ(10/3期売上高413百万ドル)です。ミレニアム社は骨髄腫治療剤ベルケイド(同498百万ドル)、OSI社は主として肺癌治療に使用されるタルセバ(製品はロシュや中外製薬が販売、09年グローバル売上高12億ドル)が主力製品です。

抗癌剤は製品化するまでに多額の開発資金と時間を要します。その意味で上記の買収は既存製品を得ることにより時間を買っているとも言えそうです。しかし採算面において投じた資金に見合った利益を得ることが出来るかどうかは別問題です。買収後の株価が3社ともに冴えない一因は採算を危ぶむ見方もあることを示しています。抗癌剤は単価は高いのですが開発費が嵩むために生活習慣病治療剤などと比べると採算は悪いと考えられます。前述のべクティビックスやアバスチンは導入製品であるため自社品よりは原価率が高くなります。09年12月に発売した小野薬品工業(4528)の化学療法時の制吐剤イメンドカプセル(米メルク創製)なども年商100億円も可能な製品と予想しますが、同社創製品よりは利益率は相当低いと推定されます。

最後にこれら抗癌剤開発の成功と抗癌剤関連の企業買収が今後の株価にどのように波及するか予想します。①武田薬品工業のべクティビックスは同社にとって久々の抗癌剤ですが最大で売上高の2~3%程度と予想され業績へのインパクトはそれ程大きくないと考えられます。旧日本アムジェンやミレニアム社が開発中の品目も長期的には興味深いものがありますが製品化は未知数です。②エーザイのエリブリンは特許満了が迫っているアルツハイマー治療剤アリセプトや抗潰瘍剤パリエット/アシフェックスをカバーするには力不足の感があります。MGIも有望な製品を持っていますが買収価格が割高だったのではないかとの印象を受けます。③アステラス製薬のOSI社買収は3~4年で資産償却後で営業黒字とまずまずの収支予想ですが、短期的には為替の円高傾向も相俟って減益要因となりそうなので株価へはマイナス要因と考えます。④中外製薬の抗癌剤はロシュ創製品主体のため原価率は高くなりますが、アバスチン(直腸・結腸、非小細胞肺癌)、ハーセプチン(乳癌)、リツキサン(リンパ腫)、タルセバ(非小細胞肺癌等)、ゼローダ(乳癌、大腸癌)、など幅広いポートフォリオを持ち、かつ他の癌種への適応拡大も申請ないし準備中なので未だ暫く2桁増は可能と考えます。これまで同業と比べやや割高感があった予想PERなどのバリュエーションも最近の全般的な相場下落で是正されたと考えます。

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