メニュー
アナリストコラム

電気自動車に磁石は必要ない!? -溝上 泰吏-

2010年09月10日

世界最強の磁石は希土類磁石といわれ、中でもネオジ系焼結磁石が最も性能が優れている。その原料となる希土類は、世界の9割以上を中国が生産している。中国の経済成長に伴い、自国で自動二輪車の需要が高まっていることに加え、環境問題(特に中国南部)から希土類の産出量を規制している。更に中国の新興メーカーが、電気自動車への参入を相次ぎ発表。世界的に希土類磁石の需要が高まっている。このため、希土類の需給が一段と逼迫し、価格上昇は否めないばかりか、原料確保が一層困難になる見通し(わが国では、希土類の完全なリサイクルシステムがまだ確立されていない状態)。
現在、国家プロジェクトなどで、希土類の使用量削減プロジェクトなどが進行中である。しかし、その実現に時間がかかっている状況。例えば理論値で強力な磁力を発生するナノコンポジット磁石であるが、希土類をナノレベルまで小さくすると自然発火しやすいことや、仮にできても、異方化(簡単にできる等方性なら既存の希土類磁石より磁力が低い)することは、既存のプロセスではきわめて難しい。

もし、これらの問題が解決しても、希土類磁石を使う以上問題として残るのは原料確保である。そこで筆者が注目しているのは、希土類を使わないモータである。かつてフォードなどが実用化を諦めた誘導モータやSRM(スイッチドリラクタンスモーター)などである。誘導モータやSRMは磁石を使う同期モータと異なり希土類磁石を全く使用しないので、熱による減磁(磁力が弱くなる)や消磁(磁力が無くなる)のリスクがなく、GMが求めるモータの高速回転のニーズにもマッチする。ちなみに、当時誘導モータの開発を諦めた理由はモータ1個の重さが40キロを超えてしまうことだった。1キロでも軽量化したい自動車に搭載するには、あまりにも重すぎたのである。

そこで、誘導モータで最も重量を取るコイルの更なる改良に、実用化がみえてきたリニアモータの超電導の技術を使うことで、打開策が見えてきそうである。また、SRMは、磁気抵抗の差を利用したモータで、現状のものよりトルクが弱いことや、エネルギー効率が低いことが問題であったが、実用化レベルまで近づいてきている。新たな駆動用の誘導モータやSRMの実現できる可能性が高まってきており、その実用化が待たれる。

こうしたモータを使って、タイヤのホイル内に完全に隠れるホイルインモータ(インホイルとも言う)を搭載した電気自動車が、ドイツのアウトバーンを高速で走る時代が来るかもしれない。また、ホイルインモータにすることで、個々のタイヤをそれぞれ電気制御できるため、既存の駆動システムの必要性が無くなるだけでなく、電圧も家庭用と同様になるかもしれない。自動車設計が完全に自由になる。もしかしたら将来には、とある家電メーカーがエレクトロニクス技術を駆使し、電気の乗り物を製造販売している時代が来ているかもしれない。

アナリストコラム一覧 TOPへ戻る