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技術力を再確認すべきとき -溝上 泰吏-

2011年01月14日

日本で開発され世界に広まった製品がいくつかあるのをご存知でしょうか?磁石や乾電池などがそうです。
例えば、永久磁石ですが、人工的な磁石が登場する前は天然の磁石として磁鉄鉱などが、羅針盤などに使われていました。1916年にKS磁石が日本で開発されました。KS磁石は、さほど強くないですが、衝撃に強く耐熱性に優れているため、現在でも軍需用や特殊機器に使われています。

また、1930年代には数量的に現在最も普及(自動車から家電に至るまで幅広い用途)しているフェライト磁石がわが国で開発されました。しかし、磁力が劣っていたので開発当初、”使い道が無い”とのことで、わが国では評価されませんでした。しかし、欧州企業が、原料が豊富で割安な酸化鉄であったことに注目し、実用化しました。それをみてわが国でも量産されるようになり、世界最大のフェライト磁石生産国になりました。現在では、コスト競争になったため、フェライト磁石の主要生産地は東南アジアとシフトしています。
1960年代には米国でサマコバ磁石(原料にサマリウムとコバルトを使った磁石)が開発されましたが、あまり普及していません。サマコバ磁石は耐熱性に優れていましたが、原料がレアメタルであったためコスト高がネックになっているのが理由です。

1980年代に入って磁力が強いネオジム磁石が日米で、ほぼ同時に開発されました。具体的には米国はボンド磁石(磁力は見劣りしますが、加工性に優れている)で、わが国は焼結磁石(加工性が劣りますが、世界最強の磁力を有する)でした。ネオジム系焼結磁石は現在のハイブリッドカーや電気自動車、省エネ家電には不可欠な製品として需要が拡大傾向にあります。しかし、原料が希土類であり、中国に資源が集中していることもあり、現在の主要生産地は中国(今のところ汎用品が中心)となっています。

振り返ってみれば、永久磁石はほぼ20年毎に新しいものが登場してきています。今年はネオジム磁石が登場して約20年以上になります。このため、業界では新しい磁石の登場が期待されています。現在、注目されているのは原料が豊富な鉄と窒素を使った磁石です。そう遠くない将来、現物を目の当たりにするかもしれません。

戦後、わが国は欧米に追いつけ追い越せの掛け声の下、イエローモンキーと揶揄されながらも技術力を磨き、自他共に認める技術大国になりました。しかし、私は元来から、こうした素地をわが国が有していたからだと考えています(大学の専門分野を、母国語で授業を受けられるのは、唯一わが国だけです)。だから、欧米流の最先端技術を的確に和訳でき、すばやく理解でき、応用もできたのだと思います。こうした素地が、わが国で永久磁石や乾電池などを世界初のものを開発できてきたのだと思っています。

資源に乏しいわが国は、残念ながら資源争奪戦に出遅れています。このため、技術力でもって打開するしかないでしょう。日本の高い技術力を再確認し、自信を取り戻す時期ではないでしょうか?

Written by 溝上 泰吏

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