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アナリストコラム

日本はどうして高品質スポンジチタンを安定的に生産できるのか? -溝上 泰吏-

2011年03月11日

2000年頃から、国内外の機関投資家へのプレゼンで、わが国のスポンジチタンは高品質が安定的に生産でき、それらが民間航空機のジェットエンジンに使われているとの説明をしてきました。
決まって、返ってくる質問は、どうして日本メーカーだけなのか、海外メーカーはキャッチアップできないのか、といった内容です。

そのとき私は、最初にスポンジチタンの歴史についてお話しています。銅は6,000年、鉄は4,000年の歴史があり、その間に現在のような連続生産のプロセスが出来上がってきたこと。一方、スポンジチタンは戦後に量産化された新しい素材であるため、未だにバッチ式であること。バッチ式とは、大きな試験管やビーカーをイメージしていただければわかりやすいと思います。複数のバッチの品質を一定にする為には、バッチ一つ一つの温度管理や、反応速度の制御などが非常に重要になってきます。つまり熟練の技や勘が必要になります。

更に企業の生い立ちについて説明をします。スポンジチタンの本格的な生産は、戦後始まりました。戦勝国では、強くて、軽くて、さびないチタンを軍需用に使用しました。しかし、敗戦国であるわが国は、新しい素材であるチタンを軍需向けに使用できなかったため、民需用として開発を進めなければなりませんでした。そこには、最大のライバルであるステンレスが立ちはだかっていました。ステンレスの最大の武器は価格でした。つまり、わが国のスポンジチタンメーカーは60年もの間、ステンレスに勝つべく、生産技術とコスト競争力を磨いてきたのです。

しかし、冷戦崩壊によって軍需用のウエイトが激減(5割程度→1割強)し、現在のように民生用が中心となりました。各国のスポンジチタンメーカーは民生用へシフトをいそぎましたが、その歴史はわが国の3分の1以下と短く、また製造プロセスが、生産効率の悪いバッチ式であるこが幸いし、生産効率を高めるのに苦労している状況です。
数年前、中国の関係団体がわが国のスポンジチタン工場を見学した際、彼らがもっとも驚いたのが、臭い (有害な塩素系のガスが漏れていない→防毒マスクが不必要) がなく綺麗なことだった。

スポンジチタンの生産において意外に重要なことは、設備のメンテナンスである。物質を腐食させる塩素を使うため、メンテナンスは欠かすことができないためです。日本人は綺麗好きであることが幸いし、塩素による被害で休止している生産設備がありません。つまり、日本以外のほとんど国のスポンジチタン工場には、塩素によって休止を余儀なくされた設備が、存在しているということです。ちなみに、これら休止設備を再稼動させるには、新規投資並みのコストがかかります。
このような、生産における細かい気配りが高品質スポンジチタンの安定生産を可能にしているものと思われます。

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