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アナリストコラム

3月期決算の実績及び見通しの発表を終えて-素材関連企業の総括- -佐藤謙三-

2009年06月05日

3月決算上場企業の、09/3期実績及び10/3期見通しの発表が先月末で終了した。日本経済新聞社の集計によると、製造業合計では09/3期実績が10.9%減収、83.7%経常減益、当期利益は3兆6,348億円の大幅な赤字。一方、10/3期は09/3期比13.6%減収、18.9%経常減益、当期利益は3,657億円の黒字転換予想となっている。

先行きが不透明なことを理由に、10/3期業績予想の発表を見送る企業や暫定的な予想に止める企業が散見されるなど、当初はやや波乱含みで始まった。しかし、決算発表前の本年3月頃のアナリスト等によるコンセンサスが概ね10%?20%の経常減益予想であり、業種あるいは個別企業ではともかく、製造業全体ではほぼ予想の範囲内に止まったと言えよう。09/3期に人員削減など事業構造改革に絡む特別損失を計上していることに加えて、期中に株価が急落して投資有価証券の評価損が膨らんだため09/3期の当期利益は巨大な赤字となっている。10/3期にはそれほどの大きな特別損失計上が予想されていないため一気に黒字転換予想となっているが、これもほぼ予想されたこと。

私が担当している素材関連企業(繊維、紙・パ、鉄鋼、非鉄金属、セメント)について少し感想を述べる。10/3期の経常増益が予想(会社側)される業種は、紙・パ、非鉄金属、セメント。減益が予想される業種が鉄鋼、繊維となっている。ほぼ前回(4月上旬)の当欄で述べた通りであり、特に会社予想にサプライズはない。ただ、高炉メーカーの場合、棚卸資産評価に絡む一時的要因が大きく大幅な減益予想となっているが、実質ベースではそれほどの減益予想ではない。また、決算発表時点では原材料や製品価格(ひも付き価格)の交渉中であり、暫定予想と断りながらも慎重な見通しとなっていたが、その後のトン当たり1万5,000円程度の値下げに止まった(まだ一部流動的)ことは好材料で、上振れを予想。また非鉄金属や繊維の業績予想は、本年3月頃の市況や環境を参考にしている模様であるが、決算発表あるいは決算説明会が開催された頃には、中国の景気対策効果等で明るさが見え始めていた(非鉄金属価格の上昇や中国からの受注増)ことから、少なくとも上期業績は、会社予想を上回る企業が多いと考える。日経平均株価は、決算発表中の4月中旬から5月末にかけて上昇したが、これらのことを評価したと考えられる。ただ、石油等の原材料価格安が経常増益の大きな要因と見ていた企業には、業績の若干の下振れリスクがでてきたことは注意が必要。

関心は当然ながら10/3期下期の業績に移っている。半期ベースで見て、下期の利益は上期比で拡大する予想となっているが、事業構造改革効果が上期より下期の方が大きいというのも大きな理由ながら、下期には、わが国も含めて各国の景気対策が効いてくるだろうという期待が含まれているのも事実。素材関連企業も、アジア特に中国への依存率が急速に高まっており、当面の最大の注目点は中国の景気回復の持続性だろう。少数意見かもしれないが、09/3期末にかけて人員削減を含む事業構造改革を大企業が一斉に実施したことが将来の個人消費低迷に繋がり、さらに生産調整を迫られて悪循環に陥るリスクが全く消え去った訳ではないということも留意したい。

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