メニュー
アナリストコラム

強い会社の共通点?信越化学工業とJSR? −高橋 俊郎−

2010年05月07日

担当している企業の中で、「強い会社」と感じる会社がある。信越化学工業(4063)とJSR(4185)だ。この2社は面白いことに個人株主比率が少ないことも共通点である。
JSRの個人株主比率は09年9月末6.8%、信越化学工業は同5.7%。ちなみに総合化学各社は、旭化成(3407)同23.6、%昭和電工(4004)同31.3%、住友化学(4005)同19.0%、東ソー(4042)同22.8%、三井化学(4183)同16.9%、三菱ケミカルホールディングス(4188)同19.1%である。

今回は何故、個人株主が少ないのかという点ではなく、この2社に共通する強みを取り上げてみたい。私が現在考えている強みとは、主力製品の製造販売拠点が日本、米国、欧州の3拠点にあることである。3拠点体制だと、日本(本社)にいながら主要市場の情報を絶えず入手することができる。例えば、朝に欧州、昼に日本、夜に米国からの情報が入り、次の施策を打ちやすいという面が考えられる。ここで重要なのは、営業拠点だけでなく、製造やR&D機能も有していることである。製造の拠点があってこそ顧客への深いニーズや需要動向が把握できると考える。以下に両社の強みを紹介したい。

信越化学工業の場合、3極体制で塩化ビニル樹脂を製造している。塩化ビニル樹脂は建材などの用途に利用される汎用樹脂であるため、コスト競争力が重要となる。同社のシンテック社(米)は業界最高の競争力を持っている。その理由は、製造能力に加え、原料立地、消費立地を押さえているからである。塩化ビニル樹脂を製造するためには塩を分解し塩素を取りだす必要がある。その際に苛性ソーダ(アルミ精錬など様々な工業用途で使用)が発生する。同社は輸送費をかけずに原料調達が可能となっており、米国という産業立地のため苛性ソーダの販売も容易である。汎用樹脂は販売価格が安いため、いかにコスト低減を実施しても、原料・消費立地に優位性がある。米国からは南米、アフリカなどへのアクセスも容易である。日、米、欧の3極製造のため、世界中の販売先情報を得やすい状況となっていることが、他社に比べて圧倒的に優位となっている。

JSRはフォトレジストを3極体制で製造している。フォトレジスト(光を当てると固まる)は半導体製造に使用し、年々高機能化(微細化)が進んでいる。そのためR&Dが非常に重要なポイントである。現在、最先端はArF(フッ化アルゴン)であり同社は世界シェアの40%弱を握っている。しかし、当初からシェアが高かったわけではない。参入は後発組であった。
同社は競合に先駆けて3極体制を構築。過去、半導体の技術が進んでいたのは欧米であった。同社は、製造・R&D拠点を有し、trial&errorを繰り返しながらも技術蓄積をしたと推測される。同社はよく「技術力」があると言われるが、ここで言う技術力とは、特許の保有ではなく、業績に直結する「生産技術力」のことである。多くの企業は「技術力」があるだろう。ラボレベルで各社遜色ない評価を出せると思う。それが商業レベルに達した時に、トラブルに対応できるか、スループット、タクトタイム向上に貢献できるかが重要である。その基準をクリアする能力がJSRは高いと考える。同社は、欧米で、それらの経験を蓄積し日本とアジアで水平展開できたために後発組であったにも関わらず、最先端品のArFでトップシェアを強固なものにしていると考える。

やや、原料立地面や、生産技術の話に逸れた。原料立地、R&Dの強さなども非常に大事な点であるが、両社ともに、3極体制での情報量の多さが、適切な販売先を確保し業績拡大につながっていると考えている。


アナリストコラム一覧 TOPへ戻る