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アナリストコラム

株式相場の牽引役を期待し難いインターネット関連企業 -鈴木崇生-

2009年01月30日

電通の公表資料を見るとインターネット広告費は6,003億円(2007年)である。テレビの1兆9,981億円と比べればまだ規模は小さく、新聞の9,462億円にも劣る。しかし、それでも前年比24.4%の増加ではある。新聞協会によれば朝刊と夕刊を合わせた発行部数は5,149万部。総務省の人口推計からインターネットへリーチする層として15歳から49歳だけを抜き出しても5,574万人存在する(8月1日付確報)。いずれ比肩し得る規模へ成長してもおかしくないと推測されるが、インターネット関連企業の業績は総じて伸び悩んでいる。広告収入だけを抽出してもマクロ環境と同じように前年比24.4%の増加は示していない。なぜなのだろうか。

定性的な話となるが、インターネットへの広告出稿を獲得する際にある種の壁として聞こえてくる話が2つある。1つはコンプライアンスの強化、もう1つは企業の組織体制である。コンプライアンスの強化は、これはインターネットへの出稿に限らないのであるが、費用対効果を審査し支出に対して厳しくなった影響が出ているとのことである。社外取締役の決済印が必要となった背景も話としては聞こえてくる。企業の組織体制とは、事業部門と広告宣伝部門が分かれているということに起因する。予算を消化するのが役目である広告宣伝部にとって、マスへの出稿は金額も大きく仕事のノウハウも蓄積しているので取り組みやすい。対してインターネットの広告はPCでも数百万円、モバイルなら数十万円規模の積み重ねとなる。費用対効果よりも予算消化という業務が優先されるため、インターネットへの広告の出稿が伸び悩むということらしい。

上場しており広告で収益を稼ぐインターネット関連企業にとって、共通の悩みであるのはYahoo!という存在だ。国内においてYahoo!のPVはGoogleと比べても圧倒的な差を持つ。テレビや新聞に比べ誰が見ているか不明瞭なインターネットにとって、消費者へのリーチの絶対量はPVで決定される。よって、広告を打つならYahoo!が優先される。ヤフー以外の各社にとっては自身が保有するPVを増加させて媒体としての魅力を高め、営業する必要性が生じる。しかし、各社とも大幅な増加は達成できておらず、収益も頭打ちの状況である。ディーエヌエーですら3Qの広告収入は前四半期比で減収へ転じた。

Yahoo!の媒体としての力が強まり、ヤフーの収益が伸びれば他の媒体も追随して引き上げられる可能性は考えられる。ahoo!と対比させて自社媒体の魅力をアピールすることができるからだ。しかし、ヤフーの広告事業の3Qは前四半期比0.7%の増収に止まり、PVの伸び率も鈍化している。

総務省の統計資料からインターネットのトラフィックの総量を見ると、一貫して右肩上がりで伸び続けている。これは利用者の増加に加え、それに伴い様々なページが増えて広告枠の絶対数が増加しているためと推論すれば、整合性が合うように思われる。インターネット広告費が前年比24.4%の増加となったのは新たな広告枠が出現したからであってインターネット広告の魅力が必ずしも高まった訳ではない。ヤフーの広告事業の伸びが鈍化している点はその説明材料となり、よって対比される各企業の伸びも限られてくる。加えて上記のような定性的な側面も出稿に当たっては障害となっているのであろう。

各企業にとって業績を伸ばすために必要となるのは自社媒体が抱えるターゲット層を明確にして広告を打ちやすくする努力が必要だろう。ターゲット層が明確になれば広告媒体としての魅力も高まり営業力も高まると思われる。ただし、これは時間がかかると思われる。個人情報の取得が絡んでくるためだ。その点、既にキャリア側である程度の情報を取得しているモバイルへは取り組みやすい。
PCからモバイルへのシフトが加速することになるだろう。しかし、ディーエヌエーのようにターゲット層が明確であっても広告出稿を勝ち取るのは厳しい情勢になっているといえる。SNSのカフェスタがサイトの存続のために直接課金(アバターの購入)を呼びかける異例の事態も発生した。

話が少しわき道に逸れるが、短期的に収益を稼ぐにはマネタイズという選択肢が存在する。大きく2つに分けて媒介として購買等による手数料を取る方法と、自社媒体が抱えるユーザーからの直接課金という方法がある。前者に関しては楽天市場、カカクコムなど大手が既に存在しているため参入障壁は高く、新たなアイデアが必要である。また、1件あたりの収益は僅かであるため直接課金に比べて手がける魅力は劣る。しかし、その直接課金はモバゲータウンが示したとおり突然に収益が鈍化するリスクをはらむ。インターネット関連企業が収益を稼ぐには厳しい環境になっているといえる。

視線を転じ、IABの公表資料を見ると米国でもネット広告は頭打ちの状態(11月20日公表資料)だ。3四半期連続で収入は横ばいとなっており、10-12月期の決算では米国のインターネット業界を牽引するグーグルは増収率が初めて20%を切るなど減速感は強い。米ヤフーは1.4%の減収であった。Web2.0という言葉は陰り、もはや耳にする機会すら失われている。日本独自の状況ではない模様だが、かつて新興市場を賑わし株式相場を盛り上げてきたインターネット関連企業に、再度の相場の牽引役となることを期待するのは難しそうである。

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