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アナリストコラム

信用収縮の終息なくして自動車販売の本格回復はなし -高田悟-

2008年12月26日

2008年の自動車業界は年明け08/3期第3Qトヨタ決算説明会での「潮目が変わった」の社長メッセージで始まった。08/3期業績の過去最高更新が見込まれる中、急激な円高や鋼材高など事業環境急変を踏まえての言葉であった。4月末からの08/3期決算説明会ではガソリン高による収益源北米販売の悪化から09/3期業績に関し2桁以上の減益見通しが完成車メーカー各社から相次いだ。
続く7月末の1Q決算説明会では新興国の雄スズキの鈴木会長が「100年に一度の津波が押し寄せている」と語られたことが忘れられない。10月末からの2Q累計の決算発表では通期計画下方修正の嵐となった。特に11月初めのトヨタの営業利益計画1兆円の下方修正はショックとなり、その後僅か1カ月余りでの同社再下方修正は、戦後初の営業赤字転落見込みで大きな衝撃を残したまま今年がもう直ぐ終わる。

業界の業績悪化はある程度は予想されていた。サブプライムローン問題や原油高騰で最大の収益源、大型車や高級車の北米での大幅販売鈍化が見込まれていたからだ。ただし、比重が増した新興国の堅調である程度カバーされるとの期待があり、誰も今日のように悪くなるとは予想できなかったと思われる。事実、新興国需要堅調を背景に輸出好調で国内自動車生産は増加が続いた。しかし、鈴木会長の予言どおり夏場に激変する。不振の北米では小型車やハイブリッド車も売れなくなった。新興国の販売も急変、インドに続き中国でも悪化が始まった。特に9月のリーマンショック後、金融システムが不安定となり、世界的に信用収縮が進む中でガソリン価格は急落するが世界各地で自動車販売減が加速した。

ホンダに次ぎトヨタが2Q累計決算時の通期計画下方修正後、時を置かずして大幅な再下方修正を発表したが、円高加速なども大きな要因ではあるが最大のポイントは急激な販売減に伴う生産計画の大幅な見直しだ。その理由として自動車販売における販売金融への依存と信用メカニズムの重要性が指摘できる。
世界では一部の地域を除き自動車ローンの利用率は7?8割に達すると言われる。北米ではリース(約2割)を含めローンでの販売がほぼ100%に上る。もちろん新興国でもローン販売の割合が高い。信用収縮により販売金融へのお金の流れが細る中、貸し倒れも増加、審査が厳しくなったことが販売縮小を加速させている。北米ではゼロ金利キャンペーンなどが実施されるが、販売金融会社のリスク許容量の低下で単に客寄せに止まっている模様だ。米国では、住宅バブルによる自動車ローンの助長、中古車価格安定前提によるリース販売の拡大、証券化市場発展に伴う容易なABS発行などによる販売金融のリスク許容量の拡大、などが大型車や高級車などへの必要以上の需要を生み、新車販売を支えたという指摘もある。ただし、米国では自動車保有台数約2億5千万台に対する新車販売台数は直近では年率換算で一年前の1,600万台程度から1,000万台に落ち込むという事態に陥っている。これは25年に一度しか買い替え需要が発生しないとも解釈でき、人口増加が進む中では異常な落ち込みとも言える。自動車の金融商品化によるバブルはもはや弾け、潜在的更新需要は十分あるとも考えられよう。車は即金でぽんと買える商品ではない。よって販売金融は付きものである。足下では減産に歯止めがかからず自動車不況の出口が見えない状態が続くが、へこんでも世界最大市場である米国更新需要に加え新興国では一次取得など潜在需要は依然高いと考えられる。こうした中、自動車販売の回復には先ずは自動車不況震源の米国から金融システムが安定化し信用収縮が終息、販売金融が正常化することが大前提になると考えている。

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