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アナリストコラム

不況の後に来るものは? -服部隆生-

2008年12月05日

世界の消費や投資などあらゆる経済活動が急速かつ劇的に落込み、筆者の担当する電機業界も含め企業の業績見通しも今年の前半までとは様変わりで、来期もう一段の悪化にも備える必要がある厳しい状況だ。2001年のITバブル崩壊から今日に至るまで7年近くにわたり、世界のハイテク製品需要は比較的順調な拡大を見せてきた。これは、(1)携帯電話が新興市場を中心に爆発的な成長を遂げたこと、(2)PCはノートPCが性能向上もあり大きな伸びを示し、最近では低価格のネットブックという新市場も生まれたこと、(3)DSC(デジカメ)市場が世界的に拡大したこと、(4)パネル価格の低下に伴い、薄型テレビの市場が先進国から新興国の順に広がりを見せたこと、などが背景にある。

こうしたデジタル製品は新興市場では拡大ペースは鈍化しても、まだ成長自体は当面持続すると考えられる。しかし、問題は、今後中期的に見た場合、次の大型の牽引役が見当たらない点だ。現在の不況を通り抜けた後、「デジタル冬の時代」がしばらく続く可能性もある。メモリーを中心とした半導体価格の記録的な低迷はその予兆ともいえるのではないか。先述した主要4製品に関していえば、携帯電話とPCは情報通信分野の利便性を大いに高めた側面がある一方で、DSCや薄型テレビは既存製品(カメラとテレビ)の性能向上といった意味合いが強い。DSCはPCとの連携など使い方に広がりが生まれ、薄型テレビでは高精細化等が付加されたものの、これらの基本的なファンクションは大きく変わっていない。

デジタル製品分野では当面大型の次世代製品不在の中、既存製品の改良型、或いはネットブックのようなカテゴリーの中での局地的な発展型などが支えていく展開となるのではなかろうか。こうした環境下では、メーカー間の競争も激しくなる可能性があり、どの分野で戦っていくのか明確な戦略を持つ必要がある。例えば、ガラパゴス化(世界の流れとは異なり、島国の日本だけで独自の発達をしていること)が指摘されている日本の携帯電話端末市場は世界市場の方向性から遠ざかり、結果的に狭い市場で多数の日本メーカーが悪戦苦闘する状況となっている。明確な戦略がなければ収益低迷の罠から抜け出せないだろう。

筆者の私見では、これからは人が人間らしく(環境面を含め)生活する為に役立つような分野にビジネスチャンスがあるように思う。特に、先進国では新たなモノへの欲求よりむしろ精神的に充足感を得る為の購買行動が考えられる。例えば、より地球環境に優しいモノを選ぶことなどである。有望エリアとして具体的には、化石燃料の消費を抑える技術、農業の生産性向上に繋がる技術、ロボット技術、コンテンツ・IT分野を含めた社会インフラ技術などが挙げられる。太陽光発電やLED照明、電気自動車など本格的に立ち上がりつつあるが、これらの環境・省エネ志向の流れは加速していくだろう。たとえ「デジタル冬の時代」が来たとしても、こうした分野の成長性は変わらないと考えられる。幅広い技術の蓄積を有する日本の総合電機メーカーにとってはこうした時代の流れは好機との見方もできる。ぶれない軸を持ち、自社に不足した技術はM&Aで補うなど戦略的かつスピード感のある経営がより重要となろう。充電式電池世界大手の中国メーカーBYD(同社には著名投資家ウォーレン・バフェット氏が間接的に出資したことで有名になった)はプラグインハイブリッド車で世界の覇権を狙うなど世界ではアグレッシブな動きが加速している。日本で例えれば、三洋電機がクルマ市場に本格参入するようなものだ。現在は自動車、電機業界共に不況の真っ只中にあり、暗いニュースに事欠かないが、こういう苦難の時に将来に向けたエポックメーキングな布石が打たれるケースが多いことは歴史が証明している。これまで価格が高止まりしていた自動車も、技術のブレークスルーで安価な次世代自動車に置き換えられる可能性もあろう。その時には、プレーヤーの顔ぶれも随分今とは違ったものとなるかもしれない。電機業界、自動車業界、機械業界といったセクターの枠を越えた、或いは他業種の技術と融合した分野に注目したい。

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