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アナリストコラム

店頭販売力

2008年11月21日

液体洗剤の市場が急速に伸びている。日本石鹸洗剤工業会の調べでは07年度の洗濯用液体洗剤の販売額は466億円で06年度から9%増の市場拡大となった。一方、粉末洗剤は1,262億円と販売規模では液体洗剤の2.7倍であったものの、前年からは1%減少した。液体洗剤はドラム式洗濯機の普及により少量の水でも高い洗浄力を発揮する点が評価され、市場の成長につながった模様だが、今年に入り生活防衛意識が従来より高まっている中、詰め替え用の購入で消費者がお得感を実感できるところも支持されている理由と考えられる。

我が家でも07年の夏ごろからライオンの「敏感肌用液体洗剤ケアベール」を使いだしたが、今年のお盆を過ぎたあたりから、いつも購入しているドラッグストアの棚から同製品が消える事態(製造中止ではない)に直面した。8月頭に開かれたライオンの中間決算説明会で、「原材料価格の高騰を下期(7-12月期)は販売促進費の効率化で吸収する」との説明があったことを思い出し、メーカーの施策に敏感に反応し短い間に素早く商品の陳列(以下、棚割り)を変更する流通側の対応の早さに驚いたものだが、ライオンと花王の4-6月期と7-9月期の販売実績の伸びを見て、もう一つ、別の理由に思い当たった。

4-6月期の国内トイレタリー製品(化粧品を除く)の増収率はライオン1.9%増、花王0.9%減、7-9月期はライオン2.7%減、花王3.8%増。ライオンは春に出荷した付加価値の高い新製品(香りつづくトップや、入浴剤BATHTOLOGY)が支持され4-6月期は好調に売上を伸ばしたが、7-9月期は花王に逆転された。同社IRによると新製品は引続き好調であったものの、既存品の減収が響いたとのこと。4-6月は原油価格や天然油脂価格がピークを付けた頃であり、この3カ月で前年同期から75億円も原材料負担が増加した花王も販売促進費の削減に取り組んでおり、決算資料の数値から推察すると、金額の差こそあれ、ライオンが極端に販売促進費を削った(製品の卸値を上げた)という訳でもなさそうだ。

あれこれと思いを巡らして、ドラッグストアを徘徊し思いついた答えが花王販社の棚割り提案(カテゴリーマネジメント)の加速である。現在の花王販社の正式名称は07年4月に日用品を扱う花王販売と化粧品を扱う花王化粧品販売が合併して誕生した花王カスタマーマーケティングというが、ここでは都合上、花王販社と省略させて頂きたい。販社と言っても、ただの営業部隊ではない。問屋機能を有しているのである。通常、メーカーの取引先は問屋であり「問屋へ自社製品を販売する」行為が営業活動になるが、花王の場合は製販一体となって、代理店を通さず小売業に製品を直販しているのである。トイレタリーメーカーの中で問屋機能を備える販社を持っているのは花王だけだが、前年の合併により体力を蓄えたことにより、さらに販売力を高める次のステップに移った印象だ。一つは花王以外の製品も含めた棚割り提案の本格化。そして、もう一つは販社が決めた棚割りを実行する人員(花王マーチャンダイジングサービス社)の増強である。この4月から1割増加の900人体制となり、今まで以上にモチベーションと実行力を高め、4-6月期の不調の返上に励んだことが7-9月期のシェアアップに繋がった要因として大きいのではないかと考えている。

花王の棚割りは、商圏内の市場規模調査と他社製品も含めたPOSの販売実績データを組み合わせ、専用のソフトを使って作成される。出店過多による競争激化や来年4月の薬事法改正により異業種の参入に備える必要のあるドラッグストアも、固定費の上昇に繋がる人員を簡単に増やせない状況から売場作りの人員を派遣してくれる花王の棚割り提案を固辞する理由も少ないのではないだろうか。

棚割りの提案先店舗の正確な実数までは確認できなかった(07年10月調べでは、500社、数千店舗くらい)が、この春、夏あたりに近所のドラッグストアから我が家で愛用してきたライオンの「ケアベール」や「ソフトインワン」、「オクトシャンプー」などが消えて行ったことを踏まえると、棚割りは競争の激しい都市部から郊外の末端店舗にまで浸透し始めているのではないかと推察される。ここで、誤解を避けるために繰り返し書かせて頂くと、花王の棚割りは当該店舗での他社商品の販売実績も含めて分析した上で作成されるため、当然、花王以外の製品であっても販売好調なものは陳列される。決して排他的な提案ではない。新製品が次々と投入される中で、棚のスペースは限定されていることを考えると、小売側にとっても、売上と利益を最大化する販売好調な商品が求められるのは当然の流れである。

しかし、強固な販売力を持つ花王にも、成長を続けるために乗り越えなくてはならない課題は存在する。花王にとって、今後の成長ドライバーとして注目されているのが、アジア地域でのトイレタリー製品の販売である。09年3月期の黒字化は11年3月期に先送りされたが、この上期は現地小売大手(カルフールやテスコなど)と提携し売場確保に動いたことより、現地為替ベースで2桁増収を達成した。重点ブランド(「ビオレ」「アタック」「ロリエ」「アジエンス」)に絞りこんだMD戦略により現地でのブランドプレゼンスも高まってきている模様だ。このため、依然として課題であることに変わりはないものの、達成に向けたハードルは低くなってきていると考えている。

次に足元の業績を圧迫しているのが、化粧品事業の不調だ。化粧品市場は価格の2極化が強まっており、特にドラッグストアで販売されている2,000円から5,000円の中間価格帯と言われる市場が厳しいこともあって、同社でも上期は減収減益となった。この点では前年4月の日用品販社と化粧品販社の統合効果がまだ発揮されていない模様だが、先日、ドラッグストアを覗いたところ、「ソフィーナボーテ」や「コフレドール」の什器(中間価格帯の化粧品は什器と言われる幅80cmくらいの独立した棚にブランドごとに陳列されるのが一般)が、店頭のよく目立つ場所に移動していることに驚いた。店舗によっては驚くような目立つ場所に移動された売場もある。下期は前年12月にコフレドールが発売開始となったこともあり反動減が予想されるものの、店頭施策は原材料価格が落ち着いてきたこともあり積極化される兆しがある。化粧品でも不調返上なるか、第3四半期の結果が待たれるところである。

以上に挙げた2点以外にも、合併により流通販路を拡大した卸業のメディセオ・パルタックホールディングスの存在も中長期的には花王販社にとって脅威に育つ可能性もある。しかし、日雑問屋の反発を受けながらも設立された1966年以降、オイルショック時の洗剤隠ぺい疑惑、有リン洗剤の糾弾など、様々な困難に立ち向かいながらも、花王を大企業へ押し上げてきた花王販社の販売力は今後も高まっていくはずだ。水面下では次の成長に向け、また新しい戦略が画策されていることだろう。アナリストとして、先を見る眼がまだ備わっていないため、残念ながら次の一手を予想することは出来ないものの、新たな施策には目を向けて行く構えである。

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