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アナリストコラム

国内新車販売台数の減少について考える −高田悟−

2008年07月11日

国内で車が売れなくなっている。車離れが止まらない。国内新車販売台数(登録車+軽自動車)は1990年度の780万台をピークに縮小が始まった。2000年度からは毎年590万台前後で安定していたが2006年度から再度縮小、2007年度は531万台と26年ぶりの低水準に落ち込んだ。今年度も4月は自動車取得税の税率低減効果で何とか前年同月を上回ったものの、5月、6月は連続前年割れとなり市場縮小が収まる気配はない。北米の自動車販売悪化やビッグスリーの経営難などで目立たないが、2007年度の国内自動車保有台数が7,908万台となり戦後初めて減少に転じたとことなどは懸念されるしもっと注目されるべきだと思われる。

国内乗用車メーカーは主要で8社に上り、その数は先進諸国の中では突出する。市場縮小で競争が激化する中、国内カーメーカーは海外に活路を求めてきた。例えばホンダは売上の87%は北米を中心とした海外からだし、スズキは営業利益の約半分をインド子会社で稼ぐ。調達・生産は消費地の近くが効率的なのでカーメーカー、部品メーカーは国内市場縮小、海外市場拡大の流れを受け経営資源を大きく海外にシフトさせてきた。とはいえ高度な技術を要す製品や品質が重要となる部品の生産や開発は国内に止めており国内が経営の最重要拠点であることには今のところ変わりがない。このため、頻繁な新型車の投入、顧客の視点で大幅に店舗スタイルを変更するなど各社とも懸命に国内需要の掘り起こしに当たっている。それでも最近の国内停滞は厳しく新車販売台数500万台割れを目前に市場シェア低下が続く一部メーカーには国内業務縮小を表明するところも出てきている。

自動車は海外で売れればよいとの意見もある。しかし使用される材料や部品が多種多様に亘る自動車産業の裾野は広い。直接、間接的に様ざまな産業と結びつく。自動車関連就業人口は501万人で国内全就業人口の8%を占める。環境負荷軽減、安全・快適性向上などに向け最先端の技術が要請される。成熟した国内市場での厳しい競争、規制への対応を経て自動車産業の競争力が強化され国内他業界の成長にも結びついてきた。もしこのまま国内自動車販売の減少が続けばどうなるのだろう。市場として新興国の存在感が増す中で技術や開発といった頭脳部分も流出、外貨獲得のリーダー役としての自動車産業が衰退、他産業にも波及し我が国経済力全体の低下に繋がることは容易に想像がつく。技術立国、世界の工場としての名声もやがてどこかに飛んでしまうだろう。 かつて第二次産業が衰退する英国はウインブルドン化現象と揶揄されながらもロンドン・シティに外国資本を呼び込み国際金融センターとして金融産業を発展させることで経済成長を維持した。仮に自動車産業が衰退したとしても変わる産業が育っていればいいのだが新車販売の縮小は前記のとおり中長期的な我が国の経済成長に大きく関わる問題であると思われるが故に高いレベルでの議論がもっとあって然るべきと考えている。

それではなぜ車は売れなくなり車離れが進むのだろう。人口の減少、若者の車離れ、格差社会到来、魅力的な車がない、性能向上で保有期間が長くなったなど様ざまな理由が挙げられる。どれも頷けるが最大のポイントは所得の大幅な増加が望めぬ中、都会を中心に車保有のコストパフォーマンスの悪さがガソリン価格の上昇により相対的に増したためだと考える。我が国の高速道路通行料金は特別高い。世界的には無料の国もかなりに上る。車を持つと毎年の自動車税、車検で重量税、ガソリンを入れる度にと複数の税金を払う。任意保険が広く普及した今日でも自賠責保険が強制される。駐車に色々とお金がかかる。ちなみに我が国とは異なり公の利益、論理が個人の利益に優先する英国では幹線道路以外の公道は近隣住民であれば行政への申請で無料駐車許可証が発行される。我が国では新車販売が好調で自動車保有台数が毎年伸びる中で考えられた諸制度が今も変わらず運用される。自動車保有台数が減少に転じた今こそ自動車産業の今後も踏まえて自動車に関わる諸制度の見直しが図られるべきではないかと考えている。

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