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アナリストコラム

自動車生産の潮流変化と自動車部品業界に関して -高田 悟-

2010年01月15日

2009年(暦年)の主要国自動車新車販売速報が出揃った。米国発の世界的景気後退下で先進地域は厳しかったが、新興国は落ち込みが一時的でその回復の早さが目立った。既に周知の事実だが中国の新車販売が前年比46%増の1,364万台となり、同21%減の1,040万台に終わった米国を抜き世界一の市場となった。中国は今年1,500万台超の市場に成長すると見られている。その他の新興国ではロシアの回復が遅れるものの、インドが同14%増の226万台となった模様で中国に次ぐ市場の急拡大が注目される。

米国は自動車保有台数が2億台をゆうに超え人口増が続くため足元を底に販売はやがて回復すると言われる。先進地域で深刻なのは国内の新車販売だ。90年の700万台後半をピークに市場は縮小、00年代に入り500万台後半の水準で安定したが、この数年で一段と落ち込んだ。昨年はエコカー減税や買い替え補助金など公的支援で後半持ち直したが前年比9%減の460万台に終わった。人口減や若者の車離れが市場縮小の背景と言われるが、エンジンルームがなくボディ設計の自由度が増す電気自動車が登場しても車体の形状は従来と変わらないのでは市場の先行きは暗いと考えざるを得ない。こうした中、国内需要と米国など先進地域向け輸出をベースに隆盛を極めた国内生産の落ち込みも激しい。07年度(4−3月)に1,179万台に達した国内自動車生産は今期、09年度は800万台後半まで落ち込む見込みだ。

世界の自動車市場ではフォルクスワーゲン、現代自動車といった新興国や中・小型車に強い完成車メーカーの勢いがいい。新興国のモータリゼーションの流れに遅れてはならないと国内完成車メーカーは中国で現地生産強化に動き、大手を中心にインドなど低コストで市場性もある地域で世界標準の車を生産し、そこから世界へ輸出し円高にも対応するという方向に大きく舵を切る。新興国ではインドタタ社の「ナノ」に代表される、30万円を割るような超低価格車が市場で受け入られており強敵となる。従来の米国、先進国での大型車、高級車対応から新興国低価格車対応に車造りの考え方も大きく変わりつつある。採算を確保すべく部品の現地調達率アップとともに部品の同質化、標準化、共通化などが避けられない。

完成車メーカーについて動くのが国内部品メーカーの宿命でもある。これまで完成車メーカーの北米や国内の生産体制強化、そして環境対応重視の動きに合わせ多額の投資を行い、足元の自動車不況で体力を擦り減らす中、今度は新興国対応や新興国部品メーカーとの競争を強いられる。自動車生産のパラダイムが大きく変わる中でついていける会社といけない会社が出てくるだろう。ただし、「ナノ」にデンソーのワイパシステムが搭載されたように、新興国の小型、低価格車とはいえ、安全対応は当然のことながら、世界的に環境規制が厳しさを増す中、軽量化、低燃費化、電気化などによる経済性の確保や環境対応は欠かせない。新興国生産車が今後世界標準、需要の主流となる可能性が強まる中で安全、燃費、環境面などで他社にない技術力と体力を持ち合わせた部品メーカーには逆にチャンスが増しているとも言えよう。
幸い狭い国土、多雨、四季の差が激しいなど、車にとっては過酷な環境下、そして天然資源の恵まれぬ中で蓄積されてきた技術が国内部品メーカーにはある。電動パワーステアリング、転がり抵抗軽減によるエコタイヤ、高張力鋼板(ハイテン材)、電子燃料噴射システム、LEDヘッドランプ、などとすぐに思いつく技術がいくつもある。厳しい環境下ではあるが、こうした技術を活かし系列や従来の取引先の枠を超え大きく飛躍する部品メーカーが今後出てくる可能性が高まっているという見方もできるだろう。

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