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アナリストコラム

電子書籍市場に注目 -服部 隆生-

2010年02月12日

電子書籍端末が米国を中心に立ち上がり、いよいよ世界的に普及の兆しが見えてきた。Amazon.comが07年にKindleを発売してブームの火付け役となったが、SONYも06年にReaderを投入しており、米国では現在両社で9割前後の市場シェアを占めているとみられる。だが実は、日本ではそれより前にSONYのLIBRIeなど電子書籍端末は存在していたが、性能や使い勝手、ニーズなど上手く捉えきれず廃盤となっており、市場投入が時期尚早だったといえる。もちろん、米国と日本では事情が異なる。米国は日本と違って、街の至る所に本屋があるわけではない。従って、書店の不足を補う上でも端末からダウンロードできる電子書籍は有効な拡販ツールともなり得る。実際米国では出版社も本の電子化に積極的で新刊の約9割が電子化されている他、書店チェーン大手のBarnes & Nobleが自ら専用端末を発売するなど、業界全体で推進していく感もある。   

近年電子書籍端末が急速に普及してきた背景には、電子ペーパーや通信モジュール、電池などモバイル技術の進化・向上、部材コストの低減などがあると考えられる。更に、洗練されたサービスや利便性が鍵を握ることは言うまでもない。電子書籍には携帯電話やPCのような膨大な需要台数が期待できるとは思えないものの、潜在ニーズを満たす新たなアプリケーションをメーカー主導で開拓できつつある点は評価に値する。最近はノートPCと携帯電話の中間に位置するような新たな製品カテゴリーが続々と誕生している。もちろんPCなどで本を丸ごとダウンロードして読むことも可能ではあるが、やはり携帯性や読みやすさを兼ね備えた専用端末は魅力的であり、電子書籍端末も一定の需要は見込めるだろう。重くて持ち運びに不便な大学の教科書などは電子書籍が最適な媒体として挙げられる。

電子書籍はまず先進国を中心に広がるとみられるが、将来的にハードの価格がもっと下がれば、書物に接する機会に乏しい発展途上国の教育用にも効果を発揮しそうだ。例えば、アフリカの奥地で近くに本屋などない所が多い。携帯電話や太陽電池と同様、社会インフラから最も遠い位置にあるこうした地域こそ電子書籍の恩恵を享受できるのではないかと筆者は考えている。こうした地域では一人一台という訳にはいかないが、まずは学校単位で端末を導入し、教育水準向上の糧になれば非常に有益である。つまり、紙の使用量を削減するエコフレンドリーであるだけでなく、電子書籍は社会貢献度の高い製品との見方もできよう。

電子書籍端末市場で現在世界2位のSONYは昨年11月の説明会で、今期(10/3期)市場規模が300?400万台程度となるとの見通しを示し、同社は12年度に40%の市場シェアを目指す考えを明らかにした。販売台数の急拡大から来期は黒字化も視野に入りつつあり、将来的な収益貢献も注目される。ネットブックでは台湾勢に、スマートフォンではAppleのiPhoneやRIM(Research in Motion)のBlackberryの後塵を拝した日本勢であるが、電子書籍でSONYがそのブランド力を活かした展開ができるか期待したい。成長市場では当然競争が激化する。3月にはAppleが電子書籍も含む多機能端末iPadを投入する。また、最近はAmazon.comがKindle向けコンテンツを提供する著作者や出版社への印税を70%に引上げると発表するなど、競争優位に向けた取組みを加速している。一方、国内市場に目を転じると、日本では再販制度に代表されるように書籍の流通市場が複雑であり、業界としての反応は鈍く、消極的な印象を受ける。とはいえ、電子書籍市場の急拡大する海外との格差が広がるにつれて、日本でも危機感が醸成され、いずれキャッチアップしていく可能性は十分あると見ている。書籍の発行部数が減っても、新たな読者層にリーチを広げることで消費者の書籍購入代金を引上げることも可能と筆者は考えている。普及のポイントは更にハードの価格が低下すること、コンテンツの充実と読みやすさ(或いは、使い勝手)のもう一段の向上などであろう。

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