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アナリストコラム

経営統合破談後の、国内ビールメーカーの動き -佐藤 謙三-

2010年02月19日

2月8日、キリンホールディングスとサントリーホールディングスは経営統合交渉を終了すると発表。昨年7月13日に経営統合交渉を進めていることが公表されて以降、総じて経営統合を歓迎、期待する声が多かったが、残念ながら破談になった。その背景や推移については新聞・雑誌等でいろいろな観測記事が書かれており、改めて触れる必要はないかもしれないが、キリンホールディングス発表の「株式公開会社としての経営の独立性・透明性についての認識の違い」が破談の理由、というのが個人的には最も納得出来る。その中に、サントリーホールディングスの株主の問題や統合比率の問題があったのだろう。

注目は次の段階に移っている。キリンホールディングスとサントリーホールディングスの経営統合破談によって、これから、国内ビールメーカーの内外の資本・業務提携の動きが衰えるのか、加速されるのか。キリンホールディングスとサントリーホールディングスとの経営統合破談が、国内ビールメーカーのグローバル化の遅れに繋がるという見方もあるが、各社のビール系飲料や清涼飲料の市場環境の捉え方や中期経営戦略を見ると、私は国内ビールメーカーによる内外の資本・提携の動きが加速するという見方を採りたい。

経営統合交渉終了が発表されたのが2月8日、翌9日がアサヒビールの09/12期の決算説明会、翌10日がキリンホールディングス、翌週の15日にサッポロホールディングスの決算説明会が開催された。09/12期決算及び10/12期の業績見通しとともに、3社とも中期経営計画を発表している。経営統合破談が決定する前に作成された資料であろうが、参考にはなる。本年の国内のビール系飲料について、キリンホールディングスは前年比0.4%減、アサヒビールが同0.5%減と上位2社がともにマイナスの販売計画を発表。少子高齢化や若者のビール離れ等により、国内のビール系飲料の販売数量が漸減する環境下で「量から質」へ転換、利益の確保に注力する方針を強く打ち出している。また各社とも、グローバル化(酒類・清涼飲料・食品等の海外事業拡大)の推進、グループ経営強化(清涼飲料事業の収益強化等)の方針がますます鮮明になってきた。

キリンホールディングスは、ここ数年間の1兆円近くの積極的なM&A(協和発酵キリンや内外の食品・飲料メーカー)に対し、中期経営計画において「量から質」の方針や設備投資の抑制を打ち出しているため、回収期に入るようにも見えるが、M&A資金は設備投資計画の枠外として機動的に動く考え。サントリーホールディングスとの経営統合も、資本・業務提携の選択肢の1つに過ぎないという見方であり、今後も資本・業務提携の動きが衰えることはなさそう。
アサヒビールも、金額で見ればキリンホールディングスほどではないものの、ここ数年の内外での資本・業務提携の動きは目を見張るものがある。しかも今回の中期経営計画においても、内外での資本・業務提携を推進することを強く打ち出している。サッポロホールディングスは、M&Aを防衛する側としても注目されているが、09/12期に内外の酒類・飲料事業で資本・業務提携を実施しており、特に今回発表された中期計画では積極的な姿勢が目立つ。各社とも、海外での資本・業務提携(酒類、清涼飲料、食品)が中心となろうが、国内では、清涼飲料メーカーとの資本・業務提携の可能性が高そう。

キリンホールディングスの株価は、経営統合の交渉が進められていると報じられた前日(昨年の7月10日)が1,291円、その後の高値が本年1月8日の1,544円。経営統合交渉を終了すると発表した前日(2月5日)の株価は1,443円で、その後の安値が1,262円(2月18日まで)。本年1月までの同社の株価上昇が経営統合を期待したものだったかどうかはともかく、経営統合交渉発表前の水準に戻った状況。2月8日以降の株価下落が、経営統合の破談や、それが同社のグローバル化の遅れに繋がることが嫌気されたことが主因ならば、反応が過剰だと思う。

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