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アナリストコラム

最近のチタン株について -溝上 泰吏-

2010年04月02日

わが国のスポンジチタン(以下、スポンジと略)メーカーは、製造の歴史が最も古く、世界でも類を見ないほど高い技術力を有している。これは、生産工程が未だにバッチ式(簡単に言うと大きな試験管の中でスポンジを一つ一つ製造している)であるため、鉄鋼や非鉄精錬のように連続生産になっていないことが、国内メーカーの技術力の優位性を堅持できている理由かもしれない。別の表現をすれば、連続生産はデジタル(数値化しやすい)に対し、スポンジはアナログ(経験と感は数値化し難い)である。このため、デジタルは数字がわかれば真似しやすい。中国製の家電製品が急速にキャッチアップしてきているのは、デジタル製品であることも理由のひとつ。

こうした高い技術力を持っているわが国のスポンジメーカーは世界で唯一、高品質が要求される航空機のジェットエンジン向けに安定供給が可能となる。とりわけ、ジェットエンジンの心臓部である回転部分は、ほぼ100%日本のものが使われている。なお、ロシアのメーカーもエンジンに向けに供給していますが、メインは非回転部分、つまり外装部分にとどまっている。ちなみに、100%ロシア製のジェットエンジンもありますが、一部の国では、そのエンジンを搭載した民間航空機の自国領域内での飛行を禁止(墜落の危険があるため)している。予断ですが、冷戦時代にロシア製エンジンを搭載したミグを警戒していたのは、今考えると笑えると(打ち落とさなくても勝手に落ちてくれるから)…米国の某チタン加工メーカー広報担当者がコメントしていた。
このように、ジェットエンジンとわが国のスポンジは非常に深い関係にあり、ジェットエンジンを搭載している民間航空機の動向が、わが国のスポンジメーカーの業績に大きな影響を与える。

現在、スポンジ2社の株価は右肩上がりで上昇しているが、これは航空機業界の回復ではなく(実需を反映したものではない)、期待によるところが多きいと思われる。出遅れていた新型民間航空機(特にB787)の納入がいよいよ開始されることや06年の株価高騰の記憶が新しいことも一因になっているのもしれない。たしかに、新型航空機のチタン使用比率は従来に比べ2倍以上と多いが、実需に反映されるのに数年かかる。現実は、国内のスポンジ2社は数量減と販価下落の2重苦の状況にある。加えて、両社は需要拡大を見込んだ新増産設備が、これから稼動を始めてくるため、来年度の原価償却負担が重くのしかかる。両社の業績が回復するのには、もう少し待つ必要があると思われる。なお、06年のチタン株価高騰の時は、期待に業績が伴っていた。

このため、期待が大きいだけに業績が伴っていないことから、2社の株価は一度見直される局面がくるものと思われる。本格的な株価上昇には、スポンジの販売数量が回復してくる時期を見極める必要があろう。ただ、注意しなければならないのは、スポンジのユーザー在庫である。米国及び日本のチタン協会は、プレイヤーが少ないことを理由に統計を発表していないため、その実態がつかめない。TIWではこのタイミングを見極めるべくリサーチを続けていきます。

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