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アナリストコラム

新興国の保有急増、その驚異とリスク  -高田 悟-

2010年04月30日

最近起きている大きな変化の中で中国の自動車(四輪車)保有台数の急拡大が注目される。2004年に26百万台であった保有は2008年に50百万台を超えた。かつての先進市場での自動車普及に比べ僅か数年で倍増し普及スピードは驚異的だ。WTO加盟、開放政策、そして所得増が相俟って保有拡大に弾みがついた。しかし、無秩序な保有増は農地の砂漠化や水問題を加速させ、原油輸入拡大による巨額の外貨支払い発生など、逆に経済成長の足かせになるリスクを孕む。このためある程度のスピード調整も今後必要となろう。とはいえ、大人口を養うためには普及とともに自動車産業発展などによる高水準の成長が欠かせない。また、モータリゼーションの波を押し戻すのは難しく、保有は早晩日本を超え、やがて米国の250百万台に近づくと見られる。

隣国インドの動きも注目される。保有はまだ20百万台程度だが、近年の規制緩和により国内市場が拡大し、経済の好循環が続く。上位貧困層を中心とした所得増、10億超の人口、中国と異なり若年層の増加が進む、などを踏まえると、道路インフラ整備に遅れがあるとはいえ、保有は今後加速する可能性が高い。更には二輪保有が多く、一人当たりGDPでインドを上回るインドネシアやその他新興国でも保有増加が顕著となるだろう。

最近の異常気象多発は新興国での自動車保有急増と決して無縁ではないと考えられる。人類は新興国での自動車保有増加加速と地球環境への負荷増へ一層意識を高めざるを得ない。世界的に環境規制は益々厳しくなると容易に想像される。原油を中心に資源価格も下がりにくい状況が続くだろう。こうした中、環境負荷の低い次世代自動車を巡る議論が活発だ。中長期的に脱化石燃料、CO2排出の無いゼロエミッション車普及が先進国中心に進むと見られている。ただし、先進国市場と異なり普及初期段階の新興国では主に価格面から小型低燃費の従来型内燃機関系自動車普及が太宗を占めるとの見通しが一般的だ。しかし、この見方には落とし穴があるような気がしてならない。
化石燃料依存による自動車保有増と環境負荷増加は先の中国の例のように新興国にとっても脅威だ。保有増に連れ電気自動車などゼロエミッション車へのニーズは増すと見られ、自動車市場成長軸の移行とともに環境文明創造の中心舞台が新興国になる公算も大きい。むしろ自動車普及黎明期にあるが故に新たなインフラの整備も図り易く電気自動車普及と内燃機関系自動車の比重低下が一気に進む可能性もある。新興国での従来型小型車の足元の販売好調に加え、母国市場でのヒットで次世代自動車の主軸はハイブリッド車になるとの期待が強まったことにより、内燃機関がまだまだ残ると見られるところに国内自動車産業にとっての大きなリスクがあるのかも知れない。

(日刊自動車新聞4月26日付掲載)

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