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アナリストコラム

自動車の構造変化が変える電機の経営戦略 —服部 隆生—

2010年07月02日

筆者は民生・産業電機、電子部品などエレクトロニクス分野をアナリストとして担当しているが、今回は自動車市場を電機セクターの視点から見ていきたい。半導体の使われるアプリケーションとしてはPCや携帯電話の二つで大半を占めるものの、近年は自動車分野が徐々にポジションを高め、現在は金額ベースで1割前後を占めている。カーナビなど情報系から、制御系、ボディ系など幅広く使われており、高級車1台あたり搭載のマイコンは100個を超えている。PCや携帯電話などデジタル機器は需要の変動が激しい一方で、自動車分野は比較的安定していたことから、半導体・電子部品メーカーは車載向けビジネスを近年強化してきた。しかし、リーマンショック後の世界的な自動車市場の落込みが関連部品需要の低迷を招き、電機メーカーの収益にも大きなマイナス影響を与えたことは記憶に新しい。既に自動車市場は電機メーカーにとって重要な分野となっているが、今後エコカーの時代になれば、電池の性能向上やコスト低減の観点からも、電機業界の果たすべき役割が一層大きくなることは疑う余地もないだろう。

総合電機メーカーの中でも、日立製作所や三菱電機は自動車機器関連で年間数千億円の売上規模がある。また、電子部品メーカーでも、日本電産、TDK、オムロン、ローム、アルプス電気などそれぞれ製品分野は異なるものの、数多くの企業が車載向けに注力している。具体的にはインバータに使われるパワー半導体、キーレスエントリーシステム、電動パワーステアリング用部品、車載通信用モジュールといった製品群が挙げられる。電子技術の発達などを背景としてクルマの電子化・高機能化がこれまで進展したが、安全性、(燃費等の)効率性、操作性、快適性などのフィーチャーを向上したい自動車業界のニーズと、電機業界の部品のアプリケーションを広げたい思惑が一致したという側面も指摘できよう。現在自動車1台あたり2万個?3万個の電子部品が使われているが、自動車の環境対応が進むにつれて今後は新たな電子部品の需要が拡大すると考えられる。自動車分野を有望として将来の収益拡大の牽引役と期待する日本電産の例を見てみよう。同社はHDD用モータの世界トップメーカーであるが、中長期的にはフラッシュメモリとの競合からHDD市場の成長鈍化の懸念もあり、同社は自動車用を含む中型モータを将来成長の柱として育成する方針を明確にしている。ノイズレス、高効率化、小型化、長寿命化を可能とするブラシレスモータで同社は高い競争優位性を有しており、その普及は自動車の省エネ・高機能化を促進するものと期待される。電気自動車の時代になるとモータの役割が一段と高まろう。同社の例に限らず自動車市場の構造的変化の過渡期である現在は、エレクトロニクスセクターの企業から見ても中期的な経営戦略を左右する重要なステージにあるといえそうだ。

(日刊自動車新聞6月28日付掲載)   

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