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アナリストコラム

大手不動産会社の上期決算にサプライズはなかった -堀部 吉胤-

2010年11月12日

大手総合不動産会社の上期決算が出揃った。総じて特段のサプライズのない決算だった。全社的な傾向としては、マンション販売は、想定以上に非常に好調な一方、オフィス賃貸は、空室の埋め戻しに想定よりも時間がかかり回復が遅れ気味となっている。結果、マンションの販売経費が想定より少なく済んだことなどから上期の決算は期初予想を上回ったが、通期予想は保守的に据置きという形になっている。仲介は、リテールの仲介件数が新築マンションの販売好調の煽りを受け頭打ち感が出ている一方、ホールセールはREITや私募ファンドに動きがみられ底打ちとなっている。

マンション分譲では棚卸資産評価損の計上が前期までにほぼ一巡しているものの、棚卸資産評価損の対象となった物件や、評価損計上には至らなかったものの用地価格が高騰していた2006?2007年に用地を取得した物件の計上が多く、粗利益率は平年よりも低位にとどまっている。来期はこうした物件のウエイトが低下する一方、リーマンショック後に用地を仕入れた物件が一部計上に上がってくるため、粗利益率は平年並みの水準とまではいかないまでも回復に向かうとみられる。

現在のマンション市場の活況は、価格調整の進展、供給減による需給の改善、低金利、政策支援(贈与税の非課税枠の拡大、住宅ローン減税の拡充など)を受けたもの。今後の懸念材料は、各社が用地取得を積極化していることから用地価格が上昇に転じていることや、政策支援が来年から段階的に縮小する点。雇用環境は引続き厳しいため用地価格反転を販売価格にストレートに反映させることは難しく、利益率改善の足かせになることが考えられる。とはいえ、政策支援がなくなるわけではなく低金利継続もあり、マンション販売は堅調に推移するとみられる。

一方、不透明感が強いのはオフィス市況。三鬼商事が発表しているオフィス空室率にはピークアウト感が出ており、募集賃料も底がみえてきた感があるが、まだ既存賃料と募集賃料には概ね15%前後の価格ギャップがあるとみられ、賃料改定時の減額圧力は解消されていない。急激な円高を受け企業のコスト意識は再び強まっており、増床ニーズが限られる中、2011?2012年に大規模オフィスの大量供給を迎える。特に、ようやく空室率が回復してきた新宿エリアの供給が多く、再び新宿エリアの賃料が大きく崩れると、都心への波及は免れないだろう。ただし、影響をより大きく受けるのは、大手総合不動産よりもREITだと考える。REITは分配金利回りを確保する観点から築浅のSクラス、Aクラスの物件が少なく、比較的築古や中規模の物件が多い。リーマンショック後、新築の募集賃料が急速に低下したため、テナントの集約ニーズが顕在化しており、住友不動産や三井不動産がREIT保有のビルからキーテナントを新築ビルに引抜く事例が散見される。大量供給を受けこうした動きが強まる可能性があろう。

来期は既存オフィスの賃料減額を、新規ビルの稼働やマンションの利益率改善などで補い、全体の業績は概ね横這い圏といった構図になると考えられる。大手総合不動産会社の株価は日米の金融緩和や、日銀によるREITの買入(REITの投資口価格上昇により公募増資がしやすくなり不動産の流動性向上に寄与することが期待される)を受け8月以降上昇。割安感は乏しくなってきた。一段の上昇にはオフィス市況の回復が欠かせず、結局は今後の景気次第ということになろう。

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