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アナリストコラム

電動バイクは縮小する二輪車市場の救世主となるか -高田 悟-

2010年11月26日

自動車・自動車部品アナリスト 二輪の世界で電池とモータで走り、原付第一種(50cc以下、以下原付)に区分される電動バイクの販売競争が四輪電気自動車に先行して始まった。今春、家電量販店が省エネ家電の一つとして、中国の部品を使いベンチャーが組立て鉛電池を積んだ電動バイクを価格14万円弱で発売を開始したのを皮切りに家電量販店の電動バイク販売への参入が相次いだ。これに対抗するようにヤマハ発動機が今秋リチウムイオン電池を積んだ価格25万円程度の電動バイク販売を開始した。ホンダやスズキも後を追い大手メーカーの本格参入で電動バイク普及に弾みがつきそうだ。

国内大手メーカーは動力源にリチウムイオン電池を採用する。鉛に比べ容量が大きい、出力が高い、長寿命かつ小型で軽量などの電池の性能や特徴に加え、廃棄処理における環境面での優位性などを評価したためと見られる。排出ガスや騒音と無縁な電動バイク、とくにリチウムイオン電池搭載車はエンジン音がしないことによる安全面の不安が解消すればかなり急速に普及する可能性があると見ている。理由として、まずは、既存のガソリンエンジンと比べ価格差はそれ程大きくなく、ランニングコストを勘案すれば数年で価格差は解消される、次に家庭での数時間の普通充電で40km程度の走行は十分可能であり、都市部での移動の繰り返しを想定すれば電車などの公共交通に比べ移動時間や費用面でメリットがある、そして、クリーンで車体デザインの自由度が高いことに加え、家の中へ持ち込め駐車への懸念が緩和するなどから新たな需要層が生まれる可能性がある、などが指摘できる。

少子高齢化や若者のバイク離れを背景に四輪以上に国内二輪市場の縮小は厳しい。リーマンショックに道路交通法改正に伴う駐車違反取締り強化などが重なり比重の高い原付の販売が激減し、この数年で二輪市場縮小は加速した。このため、二輪の国内生産は欧米向け中・大型二輪の輸出が支えてきたが世界同時不況で輸出も急落し、生産は風前の灯とも言える状況にあり、電動バイクの市場投入は二輪産業を久々に活気づかせることになりそうだ。

ヤマハ発動機によれば電動バイクの出足は順調で小売に出荷が追いつかぬ模様だ。購入層の中心は所謂「お父さん」世代で家族皆が使用といった購入スタイルが多いと聞く。若者の心を惹けなくても身近な移動手段としての保有ニーズを掘り起こし原付離れ抑制は見込めそうだ。また、新世代のリチウム電池搭載の二輪はまだ開発・発展途上にあり海外での量産は難しく当面国内での生産となる。円高で国内産業の空洞化が懸念される中、新たな販売チャネルやベンチャーの出現により市場が活性化し国内で電動バイク市場が拡がるとすれば、国内での新技術の高度化や醸成に繋がると期待できる。中国では電動を含む自転車・バイクの二輪市場が約3,700万台あり、アジアの大国インドネシアでは二輪普及が目覚ましい。こうした新興国でも電力の安定供給などインフラ整備に環境規制強化が相俟って、環境負荷のより低いバイクがいずれ求められよう。こうした中、海外に先行し電動バイクの高度化が国内で進めば国内二輪産業成長の大きなオポチュニティになると見ている。  

(11月22日付 日刊自動車新聞掲載)
                            

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