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アナリストコラム

スマートフォン? ガラートフォン? -鈴木 崇生-

2010年12月10日

2010年のヒット商品番付(日本経済新聞。日経MJヒット商品番付)で横綱にスマートフォンが選出された。iPhoneが代表格と言えるだろうが、誌上を賑わしていることでもあるし、各社のスマートフォンを販売しようとする戦略も明瞭であるから、この単語を耳にした人も多いだろう。

ただし、このスマートフォン、言葉では一括りにされているが中身は大別して2つあることに注意する必要が、特に日本においてはあると考える。その2つとは全世界的に普及するであろうスマートフォンと、日本国内でカスタマイズされたスマートフォンの2つである。後者は、ガラパゴスケータイと呼ばれた日本独特の携帯電話の呼称とあわせ、造語でガラートフォンと呼ばれる場合が散見される。

まず、国内の携帯電話市場を見てみよう。携帯電話キャリアのビジネスモデルを非常に単純化すると、「契約台数×一人当たりから得られる収入+端末を販売した収益」で表すことができよう。契約台数は電気通信事業者協会(TCA)によれば11月末時点で携帯電話総計として1億1,590万台ある。総務省の調べによれば日本の人口は1億2,751万人(平成21年10月1日)であるから、概ね一人1台の換算になる。つまり、契約台数は頭打ちの状況となりつつある。

次に日本の携帯電話の作られ方を見ておくと、海外ではメーカーが作るのに対して、携帯電話キャリアが作ると言っても過言ではない。この仕組故に日本では高機能な携帯電話が作られることになったといえるが、一方で普及を促すために端末一台あたりの損益を赤字にしてまで売る構造も作り上げられることになった。そうした中で普及台数自体が頭打ちとなり、利益を得るために端末のコスト削減の必要性が高まっていた。この市場に登場したのがiPhoneである。

iPhone自体のビジネスモデルや日本の携帯電話との詳細な差異は割愛するが、日本の携帯電話は高機能だが、基本は機能を追求した携帯電話端末を売るための内容となっている。対して、iPhoneは端末の上でサービスを売る内容となっている。大まかにこの点が異なる。現状、スマートフォン人気が高まり、iPhoneを取り扱うソフトバンクモバイルがMNPを利用した他社からの契約者獲得に成功し、純増数を伸ばす状況となっている。

高機能化に際して端末調達コストが嵩む理由の1つとして個別仕様の定義があると考えられるが、OS周りから共通化して作り上げられるスマートフォンは市場が全世界にわたること、横展開が可能であることからコスト削減に効く。ただし、仕様が根幹から異なるため、例えばiモードなどが簡単に使えるようになるわけではない。OSやプラットフォームの共通化は検討課題であり、いずれは取り組まなければならない課題であったと言えるが、既存の契約者をないがしろにするわけにはいかない。しかし、iPhoneの登場でソフトバンクモバイルの優勢が明らかとなるにつれ、スマートフォンへの対応と商品ラインナップの拡充を急がなければならなくなったと考えられる。

例えばKDDIが投入したIS03はOSにAndroidを使っており、iPhoneと似たような形状でスマートフォンと呼ぶことが出来るが、中身は国内仕様のサービスが盛り込まれており、いわゆるスマートフォンを持ちたいと願うユーザーのニーズに応える製品と見られる。言葉は正確ではないかもしれないが、どちらかといえば、スマートフォンへ対応した日本の携帯電話と捉えている。IS03は事前の予約で30万台を超えた模様だが、新規契約者の獲得に結びつくかは注視する必要があるだろう。11月終盤に発売されているため、ひと月に亘り効果が見られる12月の月次動向は注目に価する。

一方でスマートフォンの盛り上がりに乗せて国内の端末メーカーが世界的な戦略を打ち出しているが、出てくるその端末の中身にも注目したい。スマートフォンをキーワードに掲げて携帯電話キャリアが開発を急いでいるため数は出てくるだろうが、それが国内仕様に似たガラートフォンになるのか、世界で戦えるようなスマートフォンになっているのか確認する必要があると考える。

いずれにしてもスマートフォンが今後販売台数を増加させ、シェアを握っていくことに変わりはないと予想されるが、結局ガラートフォンだらけとなり国内の携帯電話端末メーカーの国際競争力が向上しないということにならなければよいがと願っている。

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