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アナリストコラム

再び成長軌道の米国、日本勢はどう戦うか -高田 悟-

2011年02月04日

国内完成車メーカーの決算(4−12月期)発表が本格化する。金融危機を経て筋肉質となり、新興国の新車需要拡大と国内の公的支援を追い風に各社ともに11/3期は大幅な業積改善が見込まれる。業積は堅調だがグローバル販売競争は決して芳しいとは言えない。疾走する中国市場では販売好調とはいえ、GM、フォルクスワーゲン、などの欧米勢に比べ出遅れが目立つ。また、回復基調の米国市場では大手中心に国内勢の苦戦が続くからだ。

今年の世界の新車販売動向に話を転じる。中国、インドなどの新興市場は多少鈍化があっても販売堅調が見込まれるという点は共通認識だ。政策支援がなくなり、景気の弱い成熟市場の国内や欧州の販売情勢に関しては厳しい見方が一般的だ。こうした中、中国に抜かれたとはいえ、世界の2割弱の市場規模にある米国市場に最も不透明感が強く、今年の世界販売は米国市場の動向が鍵になると見られている。

米国市場は今年も回復基調継続を筆者は予想する。コンセンサスは1,300万台(昨年1,155万台)程度のもようだが、現政権の積極的な景気刺激などを踏まえるとこれ以上も十分期待できよう。また、成熟市場の中では中期的に市場の成長ポテンシャルも高いと見ている。㈰昨年の販売実績がピークの2/3の水準に止まる、㈪、世界トップの自動車保有から潜在的な買い替え需要は大きい、㈫先進国の中では人口増に伴う人口ボーナスも見込める、などがその理由だ。従い今年に止まらず、中期的に米国で販売が伸ばせるプレーヤーの業積には期待が持てそうだ。
再び成長軌道に乗った可能性もある米国市場だが市場構造や競争関係には大きな変化が見られる。かつての日本勢のように、技術力や商品性で差を縮めた韓国メーカーを中心としたアジア勢が価格を武器に勢いが良い。昨年はピックアップトラックやSUVなどのライトトラック人気が景気回復の中で復活し、政府支援や大規模なリストラで再建を遂げた米国勢のシェア挽回も進んだ。今年はガソリン価格上昇から乗用車人気が想定される。こうした中、身軽となった米国勢も台当りの採算が低い小型乗用車に本腰を入れる。こうした動きに対し、リコール問題なども影響し、昨年苦戦を強いられた国内勢も大手を中心に主力乗用車のフルモデルチャンジなどで巻き返しを図る。

新興国という言葉がとかく賑う。しかし、一国の新車市場の規模は中国を除けば、新興国のいずれであれ米国には遠く及ばない。更には、国内自動車生産の約2割が米国を中心とする北米向け輸出である。新興市場が北米に変わる大きな輸出市場になりえるわけではなく、国内自動車需要が縮小に向かう中、北米向け輸出の好調なくして国内生産の活況もないと言っても過言ではなかろう。その米国で国内勢の牙城であった小型乗用車での競争の激化は明白だ。こうした今、厳しいが、国内勢にとっては価格競争に巻き込まれず、ブランド価値を維持し、市場ニーズの変動にも柔軟に対応、数量を伸ばしていけるか否かが問われている。また、母国市場での米国勢復活と新興勢力台頭の中で正念場を迎えたとも見られる国内勢がこの巨大市場でどう戦うのかは単に国内勢の業積に止まらず、国内自動車生産、国内自動車産業の今後にとっても重要な意味を持つと言えよう。

(1月31日付 日刊自動車新聞掲載)

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