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アナリストコラム

電力不足を新たな成長源泉にしたい -高田 悟-

2011年04月22日

東日本大震災(以下大震災)から僅か40日余りだが国内完成車メーカーの国内工場は被災地域も含めほぼ全てで生産が再開した。しかし、各社ともに工場操業は震災前の5割程度に止まりいつ本格稼働となるのかが特定できない。来週から自動車・自動車部品セクターの11/3期決算発表が本格化する。それを前に系列部品メーカーから決算説明会開催の見合わせや電話会議のみへの変更の連絡が入る。これを踏まえると今回の完成車メーカーの決算発表では12/3期の生産台数など定量的な見通しはどうも聞けそうにない。

足元の低操業に加え今後の見通しを困難にしている大きな理由は被災地域が広範囲に及び産業の裾野が広い中で程度の差はあれ被害が多くの部品供給先に及んだことだ。直ぐには代替が利かぬ精密電子部品の生産工場などの直接被災で部品供給が不安定になっている。加えて今回の大震災では福島原子力発電所(以下原発)が被災し、事故の収束が未だ見えないことの影響が大きい。電力不足への対応が求められる中で工場は安定的な生産の目処が立たない。

こうした中、注目される動きが出てきた。新神戸電機(6934)は風力発電用の長寿命鉛蓄電池に新たに開発した制御ソフトを組み込み計画停電や電力不足に対応できる工場向け大型電力貯蔵システムを開発。電力供給に余裕がある夜間に電気を貯めておき使用のピーク時に給電することで電力需要の引き下げが見込める。一方で、電力会社との契約アンペア数を引き下げ、基本料金の削減も可能だ。また、ジーエス・ユアサコーポレーション(6674)は長時間繰り返される停電対策としてリチウムイオン電池を使用した無停電電源装置を開発した。いずれも電力不足下での安定的な事業活動継続に寄与する取り組みだ。

日本の発電の約1/4弱(電気事業連合会資料より)が原発であり、国は更に依存を高める方向にあった。しかし、今般の原発事故でエネルギー政策の抜本的な見直しが不可避となった。当面は節電や火力発電への代替で電力不足を凌ぐことになろう。但し、節電は生産・消費活動を抑制し、火力再依存は地球温暖化加速や原油高とエネルギー危機を招く。また、風力や太陽光発電は所詮主にはなりえない。中長期的な供給不足が懸念される中、需要側の改革が重要となろう。企業、家庭で省電力化が進むことが必要だ。この意味で上記産業用蓄電池での従来技術活用による新たな取り組みは注目される。これはまた新興国台頭による世界的な電力供給不足へのソリューションの一つとなる可能性もあろう。大震災で日本の技術への信頼が揺らいでいる。こうした今、大震災と復興への経験が日本をけん引する新たな技術や産業競争力の源泉となることに期待をかけたい。

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