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アナリストコラム

自動車生産の正常化について考える -高田 悟-

2011年06月03日

東日本大震災(以下大震災)からもう少しで3カ月となる。大震災直後は自社工場の一部やサプライヤーの被災により完成車メーカーの国内工場のほぼ全てが操業停止に追い込まれた。被災工場では急修復を終え、部品の調達状況を確認しながら段階的に稼働を上げ4?5月は平均的には大震災前の5?6割程度の工場稼働になったとみられる。

当初、生産正常化にはかなり時間がかかるとみられた。早くても正常化は晩秋との見通しから、大方のアナリストが11年度上期は二輪やアジアに強い収益基盤を持つ一部を除く全ての完成車メーカーや主要部品メーカーが赤字となり、通期では大幅減益を見込んだ。しかし、足元では正常化見通しに急改善がみられる。

半導体(マイコン)・塗料・ゴムなど生産のボトルネックとなっていた部品メーカーの復旧と生産前倒しに目処がついたからだと言われる。順序だてて整理すると、㈰自動車は2?3万点の多岐に亘る部品から成る、㈪サプライヤーは1次、2次、3次とピラミッド型に組織され裾野が広い、㈫生産はジャストインタイムにより需要変動の激しい一部電子部品を除き機械部品では殆ど在庫を持たない、などから大震災直後は部品調達の見通しが全く立たなかった。このため、生産正常化見通しを保守的に捉えたが時間経過とともに精査が進み、供給不足が予想される重要部品が特定され、その対応に一定の目処がついたことが生産正常化見通し早期化の背景と考える。

直近の見通しでは早いところは今月から生産正常化となり、部品不足の影響が大きかったところでも8月ごろには生産正常化が可能だという。また、秋以降は休日生産が可能なようカレンダーを変更し遅れた生産を取り戻す挽回生産に入る。こうなると、11年度の国内生産は前期を上回るとの観測も出てきた。完成車メーカー各社は10年度決算公表時には生産への不透明感から11年度計画の公表を控えた。今月中旬から徐々に公表が見込まれるがその内容に期待が膨らむ。

ただし、被害が広範囲のサプライヤーに及んだ中で本当にこんなに早く生産が回復するのだろうか。そもそも、生産正常化とは需要のある車を需要見合いで供給できる状態と考える。夏場に電力面の制約を受け、目処がついたとはいえ、一部部品に供給制約が残る中、人気車種の生産を集中的に行えるのか、正常生産が可能な車種は部品制約から一部に限られるのではないか、など疑問点は多く、また、サプライヤーの裾野は広いとはいえ、ある部品は特定の1社に集中していたなどの事実から全社が揃って増産に動いたら部品供給は実際追いつくのだろうかなどと考えてしまう。

これに加え、米国市場回復にガソリン高などからブレーキがかかり、補助金終了などから中国市場の成長にも減速感がでている。仮に世界の2大市場で需要が大きく落ち込みでもしたら、工場が正常化しても増産の必要はなくなり、大震災で失った販売機会は結局取り戻せぬのでないかなどの懸念を持つのは小職だけだろうか。以上を踏まえると、今期の国内自動車生産はまだ予断を許さず、完成車メーカーや主要部品メーカーの今期業績には依然楽観的になれない。

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