メニュー
アナリストコラム

ぶつからないクルマ -高田 悟-

2012年02月24日

自動車技術において事故を未然に防ぐ考え方をアクティブセーフティと言う。一方、エアバックなど事故が起きた際の被害を軽減する技術をパッシブ セーフティと呼ぶ。横滑り防止装置などがアクティブセーフティ技術の代表格だが、究極のアクティブセーフティ技術とも言える「ぶつからないクルマ」が国内に登場して約2年半が経過している。低速走行時に、前方に障害物などを検地すると自動的にブレーキが作動して止まる。センサで前方の障害物を探知し、自動的にブレーキをかけることで衝突を回避するシステムの搭載がこれを可能にした。

採用車種の拡大に加え、「ぶつからないクルマ」の速度域が低速域から高速域に広がろうとしている。北欧メーカーが速度15km/hまでであれば衝突を回避するシステムを先ず国内で導入したのをきっかけに、一昨年から昨年にかけて、30km/hでもぶつからないクルマを国内メーカーや独メーカー、そして先行した北欧メーカーが相次いで発売した。更には国内大手が60km/hでも衝突を回避できるシステムを開発中であることを表明している。

「ぶつからないクルマ」はどの程度普及するのか。衝突回避システムの高速域はどこまで広がるのだろう。システムの低コスト化は然ることながら、要の一つは規制緩和である。規制当局は「自動で止まる」ことへのドライバーの過信が逆に事故被害の悪化を招くことを恐れ、最近まで「ぶつからないクルマ」の導入を認めてこなかった。しかし、当局の解釈が各種実験で「30km/hまでの低速域であればドライバーの過信を招かない」に大転換したことが発売に繋がった。もう一つはシステムに関する販売側の説明のあり方と顧客側の正しい認識に依存すると考える。微妙な速度でぶつからないはずのクルマが事故を起こしたら間違いなく開発側の屋台骨を揺さぶる。「ぶつからないクルマ」の本格普及にはまだ時間がかかり、高速域への広がりへのハードルは高いと言えそうだ。

とはいえ、「ぶつからないクルマ」普及の社会的な利益は大きいと考える。先ずは発生頻度の高い低速域での事故が減らせる。これにより、保険料、軽微な事故に伴う修理費、治療費、公共サービスの関わり、など社会全体の費用が減少し、クルマ保有コスト低下に繋がる可能性がある。また、高速域に拡がれば高速域で多い痛ましい死亡事故が減らせる。更には安全性向上が新たなクルマ需要を掘り起こすかもしれないし、クルマづくりの自由度を高め環境貢献が一層図れるかもしれない。自然環境への負荷軽減への技術的取り組みが専ら注目されがちだが、世界的にクルマ保有の増加が加速する中、クルマとの共存が避けられぬ社会環境面の改善への取り組みが一層重要になると考えないではいられない。

アナリストコラム一覧 TOPへ戻る