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アナリストコラム

終わりなき軽自動車の開発競争が完成車メーカーの競争力を高める -高田 悟-

2013年08月16日

本年に入り、国内新車市場において大きな変化が見られる。1から7月までの7カ月間累計の新車販売台数は前年同期比8%減の318万台となった。昨年、エコカー補助金で販売が盛り上がった時期と重なるから反動が出た格好だ。こうした中で普通乗用車や小型乗用車を中心とする登録車販売は同12%減の192万台となり全体需要の落ち込み以上に悪化した。一方で軽自動車(以下軽)販売が堅調だ。さすがに補助金終了影響は避けられず、前年割れになったが、その程度は同1%減と僅かで、7月単月では前年同月を上回った。累計販売台数126万台はシェア39.5%(2012年36.9%、2011年36.1%)に上り、シェアはかつてない水準に達した。

新車市場はもはや、5台の内2台が軽だ。西日本を中心に多くの県で軽販売台数が登録車を上回る。この趨勢は続きそうだ。何故なのだろう。軽は登録車に比べランニングコストが安いという優位性がベースにある。しかし、「アベノミクス」により景気回復期待が強まるこの時期の堅調理由として的確ではない。軽市場ではホンダが軽強化に動き昨年ヒット車を生んだ。日産が軽開発に踏み込み本年6月には三菱との共同開発車を市場に投入した。プレーヤーが増え、新型軽の供給量が増えたという面が確かにある。しかし、新顔の攻勢を受けながらも、軽トップの一角スズキは前年並みの販売台数を維持している。一方のダイハツは基幹車種の世代交代を直前に控える中でそれなりの販売水準を確保している。以上、トップ2社の販売が堅調であることを踏まえるとより適切な答えが他にありそうだ。

軽市場はプレーヤーの増加により活性化した。競争激化により開発競争に拍車がかかった。市場に受け入れられる魅力的な新型車が次々に登場した。付加価値の高まりから需要が一段と拡大するという好循環に入った。との仮説を立てると軽シェア拡大に納得感が持てる。この仮説を支える動きとしては、大ヒットとなったトールワゴンでホンダはエンジンルームなどに工夫を施し軽最高の室内空間を実現した。ダイハツは昨年末の新型「ムーヴ」投入に際し、軽で初となるレーダーによる衝突回避機能を搭載した。また、6月投入の日産、三菱共同開発車はアイドリングストップ機能などの最新のエコサポート技術を採用し、軽トールワゴンクラストップの低燃費29.2km/Lを実現した。すかさず、スズキは7月に昨年世代交代したばかりの新型「ワゴンR」のマイナーチェンジにより、これを上回る燃費30.0km/Lを実現し、抜き返した。などが挙げられる。

新型車登場のたびに大きく付加価値が高まる。マイナーチェンジでこれを追いかける。燃費を中心に付加価値を高める競争に終りはない。軽は燃費が良くなければ意味がない。HV車やEVなど新たな動力への評価が高まる中でこの要求は一段と強まる。このため、燃費を高めるべく一層軽量化を進める。とはいえ、安全性は犠牲に出来ない。軽量化を追う一方で相矛盾する安全性という課題を克服せねばならない。また、軽は登録車に比べ安価である必要がある。多大な開発費をかけられるわけでなない。一方でOEMも含め量産が出来るようヒットの確度も高めなければならない。軽は日本国内だけの独自規格だ。国内の主戦場が軽になってしまうと日本の自動車産業はガラパゴス化してしまうのではないかという質問をよく受ける。しかし、その懸念は低いと考える。車体のサイズ、製品としての最終的な車両価格など、開発に際し制約が多い中で付加価値を上げる開発力は先進市場、新興国市場のクルマづくりにおいて共に生きる。また、こうした厳しい競争環境境下で収益を確り上げるビジネスモデルは成長の中心である新興国におけるクルマづくりで特に重要となる。やはり、国内軽市場での競争を制す者が世界を制すのである。


 

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