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アナリストコラム

移民を追い出して、米国経済は大丈夫なのか?-客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2016年12月16日

(要旨)
・米国経済には移民が必要
・白人たちの本音を探る必要
・必要な移民は合法的に流入
・違法な移民は追い出しても大丈夫
・日本は移民は不要


(本文)
・米国経済には移民が必要
米国は、移民の国である。奴隷制が廃止されてからは、後から来る移民が3K(キツイ、キタナイ、キケン)労働に従事することで、それ以前に来た移民の地位が少しだけ向上する、というシステムで経済が成り立って来たと言えよう。後から来る移民にとっても、貧しい自国にいるよりは、豊かな米国で3K労働に従事する方がマシなので、次々と移民が流入して来ているわけである。
それが倫理的に「望ましい」か否かはともかくとして、そして「望ましい」と発言するとバッシングされるか否かはともかくとして、現在既に米国に住んでいる人々にとっては、「望ましい」と感じられても不思議はなかろう。
そうであれば、一定数の移民が恒常的に流入してくることは、トランプ次期大統領も、氏を支持した米国の白人中間層も、認めているのであろう。では、何が問題なのか。それは、不法移民の流入なのである。


・白人たちの本音を探る必要
本稿に関して重要な事は、米国の白人たちの本音を考える事である。それは、自分たちの仕事が輸入品や移民に奪われてケシカランという事である。前者は、移民として流入してもいない中国人やメキシコ人が安い賃金で作ったものが輸入され、自分たちの仕事を脅かしているので、輸入に高額の関税をかけよう、という事である。
後者は、本来3K労働に従事すべき移民が、大勢流入しすぎて、3K労働以外にも従事するようになり、自分たちの仕事を奪っていてケシカランから、移民の流入を制限しよう、という事である。
ここで問題なのは、「移民は本来3K労働に従事すべき」という文章である。読者に御理解いただきたいのは、これは筆者が考えている事ではなく、おそらく多くの白人たちの本音であろうと筆者が想像している事である。
これは、建前としては正義ではないであろうが、本音と建前は異なるのである。この乖離がトランプ候補を大統領選挙で当選させた大きな力となったのである。米国の白人たちは、「ポリコレ」に疲れているのである。
ちなみに、ポリコレとは、ポリティカリー・コレクトの略で、建前上の正義のことである。人種差別は許されない、という所から始まって、最近では「メリークリスマスという言葉は、異教徒が聞くと不快に感じるから、ハッピーホリデーと言いなさい」という所まで来ているようだ。「水清ければ魚住まず」といった所であろうか、これには米国人も疲れてしまったようである。そこで、本音で語るトランプ候補が当選したのである。
そうなると、トランプ次期大統領は、米国人の、特に白人の本音を実現していく可能性が高い。そこで、彼等の本音を探る事が重要になってくるのである。


・必要な移民は合法的に流入
上記のように、米国の白人の本音は、「3K労働は新規移民に担当させ、自分たちはそれ以外の仕事に従事する」である。そうなると、3K労働に必要な数の移民は、合法的に入国させる必要が出て来る。そして、これまでも必要な数の移民は合法的に流入して来たのである。
問題は、必要以上の数の移民が流入して、「本来白人が従事すべき仕事を奪っている」と白人たちが感じている事にある。つまり、違法移民が問題なのである。
合法的な移民は、米国の白人にとっても望ましい移民であり、違法な移民は米国の白人にとって望ましくない移民だとすれば、違法な移民の流入を阻止する事は、白人にとってまさに正義であり、入国してしまった違法な移民を追い返す事も、まさに正義であり、かつ「望ましい」事なのである。


・違法な移民は追い出しても大丈夫
上記のように、合法的な移民は米国が必要としている人数だけ許可されているわけで、それを超えた非合法移民は、米国が必要とする以上の人数である。米国にとって必要のない移民であれば、流入を阻止しても追い返しても米国経済には問題が生じない。合法的な移民で足りなければ、違法な移民の一部を合法化するだけの話である。
「米国経済は移民で成り立っているのだから、移民の流入を阻止したり追い返したりすれば、経済が成り立たなくなる」との懸念を持つ論者には、合法的な移民と違法な移民の持つ意味を考えていただきたいものである。


・日本は移民は不要
日本は、米国と異なり、原則として移民は受け入れていない。3K労働でさえも、移民に従事させると日本人の仕事を奪われてしまう、というわけである。最近になり、少子高齢化で労働力不足になるのだから移民を受け入れるべきだ、という論者が増えてきたが、これは問題である。日本は長期にわたって経済が成長し、新たな労働力を必要としている米国とは違うからである。
日本経済は、ようやく長期にわたる失業問題が少子高齢化により解決したばかりであり、現時点でも景気が悪化すれば失業問題が再燃しかねない。そんな時に移民を導入すれば、再び失業者が増え、ようやく上昇しはじめた非正規労働者の待遇も再び悪化し、ワーキング・プアたちがマトモに暮らせるという希望も失われてしまうであろう。
労働力不足を契機として企業が省力化投資に励むとすれば、日本経済が効率化する事が期待されるが、移民の導入によって労働力不足が解消してしまえば、企業が省力化投資を行なうより安価な労働力を雇う事になってしまう。
安い労働力が雇えることは、企業にとってはメリットかもしれないが、日本経済全体としてはデメリットなのである。

(12月12日発行レポートから転載)


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