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アナリストコラム

行使価額ノンディスカウント型のライツ・オファリングは成功するか!?-藤根靖晃-

2017年07月28日

エー・ディー・ワークス(3250:以下 ADワークス)は、6月29日に開催された定時株主総会において、「ノンコミットメント型ライツ・オファリング(行使価額ノンディスカウント型)による新株予約権の発行が承認可決された。

ライツ・オファリングとは、上場会社が新株予約権を全ての株主に対して無償で割当て、それを権利行使してもうらうことによって資金調達をする方法。通常は、新株予約権の行使価額を市場株価よりディスカウントすることによって、そのスプレッドによって行使を促進させる。新株予約権も一定期間上場されることから権利行使を望まない株主は市場で売却することも可能である。
過去に実施されたライツ・オファリングにおいては、株価に対して大幅なディスカウントが行われることによって既存株主の保有価値を減衰させる傾向が高かったため、今回、ADワークスは「行使価額ノンディスカウント型」という方法を選択した。

具体的には、2017年7月12日時点の株主名簿に記載されている株主に対して、1株に対して1個(=1株)の新株予約権を交付する(7月7日が権利付最終日)。行使価格は39円で株主は新株予約権1個に付き39円を払い込むことで普通株1株に転換できる。
7月13日に新株予約権は上場され(証券コード:32509)、9月5日までが売買可能期間となる。行使可能期間はこれより1週間後の9月12日までとなる。

新株予約権が行使されるには少なくとも株価と新株予約権の間にプラスのスプレッド(株価−行使価格⇒プラス)が生じることが必要である。新株予約権が上場された13日はプラス(+1円)であったが、そこから4日間(7/14?20)はマイナスのスプレッドとなった。
(既存株主からの新株予約権の売却がどの程度行われたのかは不明であるが)新株予約権の時価総額は株式時価総額の3割以下であり、既存株主からの売却が限定的であれば需給面で上昇しやすい傾向にあると考えられる。また、単元株数が100株であるため、新株予約権の価格を14円とすれば最低1400円で売買が可能となる。その結果、ある種のマネーゲーム化している面は否めないだろう。
ただし、21日以降はプラスのスプレッドが発生していることから徐々に行使が進んでゆくと考える。

ここからの展開と投資機会について考えてみたい。


1) 普通株カラ売りと新株予約権の行使(一般的な投資機会):スプレッドの新株予約権に対しては、徐々に既存株主からの売りが出てくると考えられ、それが売り圧力となって新株予約権の価格は徐々に押し下げられる傾向を辿ると考える。ポイントはその時の株価の推移である。株価は、行使が生じないと大きな売り圧力が生じないと考えられることから予約権の理論株価を十分に上回る局面が出現する可能性が考えられる。その場合は、スプレッドが発生するので普通株をカラ売りして、予約権を購入・行使すれば良い。


2) 予約権の売買期間終了近くでの普通株のカラ売り:しかし、一方で行使が行われれば普通株の株価は下落するため、やがてはスプレッドが失われる。そのため、新株予約権の売買可能期間がポイントとなる。新株予約権の売買期限の9月5日を過ぎると売買が出来なくなるため、売買期限が近づくにつれて新株予約権の価格はスプレッドゼロに近づくことが予想される(実際に同社が2013年10月に発行した第17回新株予約権においては売買最終日にスプレッドはゼロになっている)。これは株価との相対関係なのでなんともいえないが、行使期限は9月12日が最終日であり終盤には行使に伴う普通株のカラ売りが生じる可能性が考えられることから、株価が行使価格を大きく上回っている状態では、単純にカラ売りをするという方法もあるだろう。


3) 予約権の売買期限間際での予約権の購入:株価との相対であるので一概には言えないが、普通株の株価が芳しくない場合は、新株予約権の価格は売買最終日近辺では1?2円となる可能性がある。仮に1円で取得した場合は行使価格を加えた株価は40円であるが、同社は9月末の株主に対して1.65円/株の感謝配当を予定しており、この配当金を取りに行くという選択もあるだろう。また、スプレッドを狙ったカラ売りは減少することから新株予約権の売買終了後に普通株の株価が上昇することも考えられる(実際に、2013年10月に発行した第17回新株予約権においては新株予約権の売買最終日の普通株の終値45円に対して、翌日終値は49円と跳ね上がっている)。


4) 8月末の2Q業績フォーキャストを狙った普通株または新株予約権の購入:同社は、四半期毎の連結業績フォーキャストを公表しており、第2四半期(7-9月)の1回目のフォーキャストを8月末に開示する予定である。この内容が好ましければ普通株の株価は堅調に推移することが予想され、新株予約権の売買期間終了に向けて予約権の下げ圧力からスプレッドが発生することが考えられる。マーケットの環境にも大きな影響を受けるものの、2Q以降の同社業績が既に公表されている第1四半期のフォーキャストと同様のトレンドを描けるのであれば、普通株の株価は上昇傾向を辿ると考えられるだろう。

7月25日時点での予約権行使はまだかなり限定的なものと考える。行使が進むかどうかは8月下旬から予約権の売買可能期限である9月5日までは勝負になると思われる。この時期の株式市場の動静が重要であり、予約権が価値を持つためには最低でも普通株の株価は40円以上でなければならない。さて、どうなるだろうか?

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