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アナリストコラム

景気動向指数に関し、読者の御質問への回答 -客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2017年11月10日

 (要旨)
■景気動向指数にはDIとCIがある。CIは勢い、DIは広がりを示す
■経済指標は振れるので、移動平均で見る事が重要
■先行指数構成指標で使えるのは機械受注と住宅着工
■一致系列に財の統計が多いのは、サービスに比べて変化が大きいから
■遅行系列で注目されるのは失業率

(本文)
景気動向指数に関して、当欄に拙稿「経済指標を一つだけ見るなら景気動向指数CI一致指数」を寄稿した(https://www.tiw.jp/investment/analyst_column/ci/)ところ、有難い事に読者の方から御質問を頂戴した。以下、筆者の回答を御紹介する。

■景気動向指数にはDIとCIがある。CIは勢い、DIは広がりを示す
DIとCIの使い分け、という御質問をいただいた。一言で言えば、CIは景気の勢いを示すもので、DIは景気の広がりを示すものである。統計作成方法は複雑なので、以下ではイメージを掴んでいただく事を優先する。厳密な説明は内閣府のホームページ(http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/di3.html#link002)を参照されたい。

景気動向指数には、先行指数、一致指数、遅行指数がある。筆者が重視している一致指数は、景気の動きと近い動きをする9個の経済指標(鉱工業生産指数、鉱工業用生産材出荷指数、耐久消費財出荷指数、所定外労働時間指数、投資財出荷指数、小売業商業販売額前年同月比、卸売業商業販売額前年同月比、全産業営業利益、有効求人倍率除く学卒)から作成する。これらの経済指標を「一致系列」と呼ぶ。

全部の項目が20%増えればCIも20%増え、全部の項目が1%増えればCIも1%増えるので、景気の勢いがわかる。問題は、ある指標が9%増えたけれども、他の8指標が1%ずつ減った場合である。一指標が増えただけで一致指数が増加してしまうが、景気後退が広範囲で観察されているのに景気が回復したと判断して良いのであろうか、というのがCIの問題点である。まあ、他の指標が1%しか減っていないなら、景気が後退し続けていると主張するのも説得力に欠けそうだが。

一方のDIは、何勝何敗かの勝率を表すものである。9項目のうち、3ヶ月前よりも増えた指標の数と減った指標の数の数を比べるのである。全部の指標が1%増えても、全部の指標が20%増えても、DIは100である。20%増えた指標が4個、1%減った指標が5個であれば、勝率が50%を下回るので、DIは50を下回り、景気が下向きである事を示唆する結果となる。景気の勢いを見るものでは無いので、仕方ないのかも知れないが、これで景気判断を行う事には抵抗を感じる。筆者が主にCIを見て、DIに注目しない理由である。

■経済指標は振れるので、移動平均で見る事が重要
後方移動平均(過去数カ月分の経済指標の平均値を今月の欄に記入する作業。以後、単に移動平均と記す)の存在意義、特に先行指数の移動平均の存在意義についての御質問をいただいた。経済指標は、様々な事情で振れるので、数カ月分の平均で景気の大きな流れを見る必要があり、それをグラフ化した時に便利なのが移動平均なのである。

経済指標が振れる原因としては、第一に、サンプル調査なので統計上の誤差が出る可能性である。そうであれば、数カ月の移動平均で見れば、統計上の誤差により過大な数値と過小な数値が平均され、「真の姿」に近づく可能性が高まるであろう。

今ひとつは、ずれ込みである。たとえば先月末に台風が来て出荷出来なかったとすると、先月は不振、今月は好調な統計が発表されるが、実力は先月と今月の平均なので、平均を見るべきなのである。

「移動平均を見ていると、景気局面の変化に気づくのが遅れる」のは確かだが、単月の指標を見ていると経済指標の振れに一喜一憂する事になりかねない。このあたりの兼ね合いで、3ヶ月移動平均が通常は用いられるが、確認のために7ヶ月移動平均も見る人がいるので、景気動向指数は7ヶ月移動平均も発表されている。

先行指数の7ヶ月移動平均に意味があるのか、という御質問だが、そもそも先行指数に意味があるのか、という疑問はここでは忘れよう。じつは筆者は先行指数には殆ど意義を認めていないのであるが(笑)。

7ヶ月移動平均が4ヶ月前の先行指数の「真の姿」だとすると、意味が無いとは言えない。4ヶ月前時点で数カ月先の景気を予測する指標が如何であったかを知る事は、現時点でも有益である。それは、現時点で現在の一致指数の「真の姿」を見ることが出来ないからである。現時点で見ることのできる一致指数は、様々な誤差やずれ込みの可能性を含んだ単月の統計のみであり、現在の真の姿を知れるのは4ヶ月後なのである。

■先行指数構成指標で使えるのは機械受注と住宅着工
各系列で重視している経済指標は、という御質問をいただいたので、まずは先行系列(先行指数の計算に用いられている11の経済指標)について。景気先行指数は、景気に数カ月先行するとされているが、先行系列の中には、「景気回復に先行するとは思われるが何ヶ月先行するかは全く不明」なものが多い。たとえば、在庫指数が先行系列に採用されているが、「在庫が増えれば遠からず生産が減る」とは言えても、どの程度遠からずなのかは、全く不明である。

その中で、実質機械受注(製造業)は数カ月後の設備投資を予測するのに有益であり、新設住宅着工床面積も以後数カ月の住宅投資を予測するのに有益であるので、強いて言えばこの二つを見ておけば良いであろう。

■一致系列に財の統計が多いのは、サービスに比べて変化が大きいから
経済のサービス化が進展しているので、労働者数に占める製造業のウエイト等は決して大きく無い。にもかかわらず、なぜ一致系列は財の経済指標が多いのか、という御質問を頂いた。

一致系列に財の統計が多い理由の第一は、サービスに比べて財の方が変動幅が大きいからであろう。たとえば、自動車を買う人は景気により増減するが、自動車を修理する人は景気により増減しないのである。

理由の第二は、生産が増えると輸送サービスの需要が増える、といった関係があるため、財の動きを見ているとサービスの動きも何となく察しがつく、という事であろう。

理由の第三は、製造業の統計は整備されているが、非製造業は様々な業種があり、全体像が掴みにくい、という事であろう。非製造業に関する統計は、製造業に比べて圧倒的に未整備なのである。

ちなみに、一致系列はいずれも景気の動きを表しているが、圧倒的に重要なのは鉱工業生産指数であろう。他の一致系列が経済の一部分だけを見ているのに対し、鉱工業生産指数は鉱工業全体の動きを追っているものだからである。

■遅行系列で注目されるのは失業率
失業率は、政策的に重要である。失業者を減らすことが経済政策の最大目標の一つと言っても過言では無いからである。その意味では、失業率が低下してはじめて「経済政策が奏功し始めた」と実感出来るのである。

ちなみに、失業率が遅行指標であるという認識は重要である。景気が回復をはじめ、企業が生産を増やしても、企業は不況期に抱え込んでいた余剰労働力を活用するだけで足りてしまうので、企業が採用を増やすまでには時間がかかるからである。

企業は余剰労働力を活用し、足りなければ社員を残業させ、それでも足りなくなってようやく採用をはじめる。一方で、企業が採用を始めると、それまで求職活動を諦めていた人々が求職活動を始めるので、失業者(仕事を探しているのに見つかっていない人)はなかなか減らないからである。

(11月6日発行レポートから転載)

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