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アナリストコラム

国民医療費の負担が重いというのは本当だろうか -坪井信行-

2009年05月08日

新聞報道などでは、折に触れて国民医療費の負担増が問題だとされている。医療費抑制が国家的な課題の一つだとの議論も目に付く。高齢化の進展により、今後も医療費負担が増大するので、何とかして抑制しなければならないというものだ。しかし、本当に日本の医療費負担は重いのだろうか。そうではないというデータが存在する。

日本の医療費支出の対GDP比率は、2005年時点で8.2%となっている。この数値は、先進各国との比較において、決して大きなものではない。米国の15.9%というのは突出して大きな数値だが、欧州の先進国においても10%超の水準がむしろ普通のことである。たとえば、スイス11.4%、ドイツ10.7%、フランス11.1%といった具合になっている。イギリスが日本と同水準の8.2%にとどまっているのが目立つ程度だ。

こうしてみると、米国並みの水準に達するのは難しいとしても、GDP比率で10%程度まで高めることは、決して非現実的なことではない。2%の上昇でも、実額では年間10兆円程度の新たな市場が創出されることになる。医療費の負担は限界であり、抑制が強く求められるというような論調は、数値データを見る限り、余り説得力がないと考えられる。もちろん、日本の財政状況は、逼迫していることも事実で、公的な負担増には限界があるのかもしれない。
しかし、それとても、公共投資の一部を医療費に振り向けるなどの施策によって、ある程度解決可能な問題である。箱モノを作っている場合ではない。さすがに最近、医療費が少なすぎるという議論が出始めている。日本国民もバカではないだろうから、早晩そうした認識は広がってくるであろう。

そうした観点から、医療費拡大の恩恵を受けるセクターが長期的には注目されよう。
直接的な影響は、医薬品産業にもたらされるが、そこだけにとどまらない。医療関連のサービス企業などにも好影響が期待される。さらに、医療行為が高度化し、複雑性を増すにつれ、医療とITの融合が進むものと見られる。医療関連に強いIT企業というのも注目される存在である。ITの活用は、医療の高度化と同時に、医療費の無駄を排除することにもつながるため、投資が加速される可能性が高い。すでに、大規模な病院等では電子カルテの導入が進んでいるが、規格が統一されていないこともあり、使い勝手の良いものにはなっていない。こうした問題点を克服する必要はあるが、長期的に成長していく分野になるだろう。介護分野においても、ITの活用は進んでいく。介護ロボットなども既に登場しつつあるが、介護の仕組み全体をより効率化していくのにもITは使われる。

まとめると、日本の医療関連産業は、21世紀における成長産業であり、IT分野との融合により、新たな巨大市場が開ける可能性が高い。既存の医薬品業界のみならず、IT産業の医療への取り組みも注目される。日本の医療機器のトップ企業は、東芝グループの東芝メディカルシステムズだが、その有力提携先として日本光電(東証1部6849)がある。

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