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アナリストコラム

環境対応車(エコカー)開発を巡って -高田悟-

2009年04月24日

昨年の原油価格乱高下、金融、自動車不況を受け、国内完成車メーカー各社は今では過剰となった生産能力の圧縮により損益分岐点の引下げを急ぐ一方、今日的課題であるエコカー開発に生き残りをかけ経営資源を集中させます。エコカー開発ではハイブリッド車の成功に見られるように国内勢が技術的優位に立つと言えます。しかし、開発が世界的に活発化する中、その優位性を長期的に維持できるとは限りません。最近ではエコカー開発を巡る報道とともに、「ガソリンエンジンの世紀は終わり、モーター+電池の世紀が始まった」などの言葉が注目を集めます。そこで、エコカーを巡る動きやエコカーの主流は何になるのかなどに関し整理を試みたいと思います。

低燃費のガソリンエンジン車を除くエコカーとして(1)ハイブリッド車、(2)電気自動車、(3)燃料電池車が実用化されています。ただし、既に量産の域にあり、同車格のガソリンエンジン車と価格面でそれ程遜色のないレベルに達したのはハイブリッド車のみと言えます。トヨタ「プリウス」が登場し10年を超え累計販売台数は100万台を突破しました。本年2月投入のホンダ新型「インサイト」が200万円割れの価格を実現、逆風下、受注は好調で、元祖「プリウス」も性能アップが図られた3代目が登場間近です。価格低下に税制面の優遇が加わり今年はハイブリッド車普及に弾みがつきそうです。10年後にはハイブリッド車が世界新車販売の1割を超えるとの見通しが一般的ですが足元はそれ以上の勢いを感じます。しかし、ハイブリッド車は、エンジン走行の比重が高く、(1)燃費の良いガソリン車に比べ燃料コストが格段に安くはない、(2)温暖化防止に向けCO2排出をゼロにできない、などが課題です。

このため現状はエコカーの主役の観がありますが、いつの日かその座を降りることになるでしょう。次が見えぬ中、トヨタは全方位でエコカー開発を進めます。ホンダは水素をエネルギー源に水しか排出しない所謂究極のエコカー燃料電池車の開発継続に注力します。またハイブリッド車に出遅れた日産や三菱は電気自動車の量産を目指します。この夏には三菱が大型リチウムイオン電池搭載の電気自動車「アイミーブ」を主に官公庁、法人向けに発売します。
エコカー開発の加速で漸く量産の緒につき注目を集める電気自動車ですが、依然、(1)一回の充電当たりの走行距離(「アイミーブ」でカタログ上最大160km程度」、(2)充電に時間がかかること、(3)ガソリンエンジン車との価格差、などの課題が残ります。本格普及には電池の更なる進化やインフラの整備が不可欠であり、当面は近距離目的や公的機関での利用に止まるでしょう。また燃料電池車は水素ステーションなどインフラや価格面で更にハードルは高いと言えます。

こうした中、トヨタが2010年までの導入を目標とし、海外勢ではフォルクスワーゲンなどが注力するプラグインハイブリッド車が注目されます。外部(家庭用コンセント)からの充電が可能で、夜間に短時間で充電をしておき、モーターのみの電気自動車として40?50km程度の近距離走行をする一方、長距離走行時にはガソリンエンジンが自動的に稼動する仕組みのハイブリッド車です。現世代ハイブリッド車は現状、電池はニッケル水素電池の搭載が主流ですが、小型・軽量で高出力のリチウムイオン電池搭載が可能となることで普及の目処がたってきました。現世代のハイブリッド車に比べ一層燃費改善が期待されること、そして電気自動車のコンセプトにより近くなることが大きな違いで、次世代ハイブリッド車として期待されます。

さて技術革新が激しく、公的規制の影響なども受け易いため「今後のエコカーの本流は何か」を見極めるのは大変難しいのですが、先ずは現世代ハイブリッド車での実績をベースに次世代ハイブリッド車(プラグインハイブリッド車)へのシフトが起こる中で、電池の進化や電池価格の低下が進み電気自動車の本格普及が近づくというシナリオが自然であり、国内外のトップランナーが次世代ハイブリッド車の開発に注力することからもその確度が高いと思います。ただし、米国ではビッグ3をスピンアウトした電気自動車の開発技術者を擁するベンチャーが勃興しており、リチウムイオン電池を上回る高性能な電池の開発普及などにより、次世代ハイブリッド車を経ずに一気に電気自動車の時代がやってくる可能性も否定できないと考えおります。

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