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アナリストコラム

個人投資家は本当に短期売買が中心なのか? -藤根靖晃-

2009年08月21日

先日、日本証券アナリスト協会で「株式保有構造と流動性コスト:投資ホライズンの影響」(宇野淳氏:早稲田大学ファイナンス研究科教授)というセミナーがあった。
これは株主構成の違いによって、株式流動性や企業価値に影響を与えるという実証研究であった(その研究結果にはこの稿では取り上げない)。

この実証研究で用いられた個人投資家の投資ホライズン(平均保有期間)は極めて短いものであった。
(ホライズンの計測は、有価証券報告書にある外国法人、金融機関、その他法人、その他の銘柄別、年度別取得データを取得し、これを東証の投資主体別保有残高と売買高から加重平均によって平均保有期間を算出している)

年度によってやや異なるが、2007年度の平均保有期間は、外国人0.254年、個人0.451年、事業法人7.986年、信託銀行1.579年、生保・損保19.289年、長・都・地銀18.479年であった。
個人だけを取り出すと、2004年度0.429年、2005年度0.249年、2006年度0.348年、2007年度0.451年。最も長かった2007年度でも半年にも満たない。
本当に個人投資家の保有期間はこんなにも短いのだろうか?

日本証券業協会が、毎年行っている「個人投資家の証券投資に関する意識調査」では、上記の結果とはまったく異なるデータが示されている。
最新の平成20年11月の調査報告書(調査期間は2008年6月24日?7月8日、有効サンプル数1,051人)によれば、株式の平均的な保有期間は、1年以上84.2%、1年未満15.6%となっている。
詳細内訳は、1日0%、?1ヶ月未満0.9%、?3ヶ月未満2.4%、?6ヶ月未満3.1%、?1年未満9.2%、?3年未満18%、?5年未満19.1%、?7年未満5.9%、?10年未満10.6%、10年以上30.6%。
6ヶ月未満の投資家は6.4%しか存在しない。一方で3年以上の投資家は66.2%と三分の二を占めている。
ネット取引(経験あり)の投資家に限定しても保有期間6ヶ月未満は16.5%に限定される。(ただし、ネット取引の投資家で3年以上の保有期間は40.9%と大きく低下する。)

年代別でみて20?30歳代は、1年未満の投資家が27%とやや短期保有の傾向があるものの、40歳代は、1年未満17.3%。当然ながら年齢が高まるにつれて長期保有の傾向が強くなる。
20?30歳代の投資家では、86.6%の人が保有株式の時価総額は300万円未満である(全体では57.9%が300万円未満)。

ここから何が浮かび上がるのだろうか?
証券業協会のアンケート調査は、多少の数字の違いがあるが過去3年間同じ傾向を示している。広い年代もネットユーザーも包含している。
先ほどの実証研究も証券業協会の調査も正しいとするならば、個人投資家が短期売買であるというのは、デイトレーダーなど極く一部の投資家層の影響が売買高に強く表れているということになる。

我々は、一般的な個人投資家層を見間違っているのではないのだろうか?
オンライン証券をはじめとして多くの証券会社がこうした層をターゲットにした手数料体系やビジネスモデルに転換してしまっている。

以前に金融行政の担当者の方と話をする機会があったときに、「手数料自由化は結果的に間違っていたのではないか?」とぶつけたところ、「逆のパターン(高品質で高いサービス)も想定していたのだが一方方向にだけ流れてしまった」と述べていた。暗に業者の問題と言いたかったのかどうかは分からないが、投資家の啓蒙も含めて、日本の証券ビジネスが歪な状況にあることに異論を挟む人は少ないだろう。

証券会社が株式で利益が出しにくくなったことから、投資信託や保険・仕組み債など他の商品への比重を高めた結果、株式を語れる営業員が居なくなってしまった。
株式の手数料を客寄せのための特売商品にして、他のサービスで稼ぐ事業構造を目指す証券会社もある。そのため、情報提供はコスト負担増になるため切り捨てられる。
その結果、アドバイスや情報提供に関して不満を感じている投資家も多く、そこにはビジネスチャンスもある、という指摘も存在する。

ビジネスチャンス(=高品質なサービスが受け入れられる顧客層)が存在すると信じたい。しかし、こうした長期投資スタンスの個人投資家層は”不動山如”である。
こうした投資家が動き出すには、企業業績の成長性回復期待が欠かせない。
結局のところ、株式市場の活性化が図られないのは、日本自体の魅力欠如という本来的な問題の方にあるのかもしれない。
そのためには日本が変わらなければならないのは言うまでもない。
勇気を持ってまずは自分自身が変わることに一人一人が取り組まなければならない。

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