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日本の実質賃金はなぜ上がらないか? -Perverse Boy-

2014年11月07日

日本の景気の抜本的な回復感が感じられなくなって久しいですが、それは何故でしょうか?景気の良し悪しを消費者の購買力という面からみてみますと、実質賃金の上昇=購買力の上昇ですから景況感は良くなりますが、逆に実質賃金の低下=購買力の低下ですから景況感は悪くなります。

実質賃金率は下記の簡単な数式で表すことができます:

実質賃金率=労働生産性×(GDPデフレーター / 消費者物価指数<A>)×労働分配率

なお
・実質賃金率=時間当たり労働コスト÷消費者物価指数
・労働生産性=実質GDP÷総労働時間
・労働分配率=総労働コスト÷名目GDP

これを「変化率」で見ると:

実質賃金の変化率=労働生産性の変化率+Aの変化率+労働分配率の変化率

更にここでAは交易条件と置き換えることができます。
なぜならば、GDPデフレーターはGDPを実質化するためのものなので、GDPの定義に従って輸出価格の変化率は加算され、輸入物価の変化率は控除されます。一方で消費者物価指数には、輸出価格は含まれず輸入価格は含まれます。こうした違いから、A=「GDPデフレーターと消費者物価指数の比」の変化率は「交易条件=輸出価格指数÷輸入価格指数」の変化率にほぼ比例することになります。

ですから上式は:

実質賃金の変化率=労働生産性の変化率+交易条件の変化率+労働分配率の変化率

となります。

1990年代以降、労働生産性と労働分配率には大きな変化はないので、実質賃金の低下は、交易条件の悪化によるものが大きいと考えられます。

具体的には、輸出物価指数は趨勢的に下落傾向にあるに対して、輸入物価は2000年代中盤頃から上昇傾向にあります。
1990年代の交易条件の変化率は▲4.5%、そして2000年代は▲9.3%となっております。2010年代以降、交易条件の絶対値は1を割っており、2014年7月のそれは0.86となっています。これは何を意味するかと言うと、100の商品を輸出しても、たった86の商品しか輸入できないということです。今は過去のように単純に「円安=輸出増大=景気回復」とは言えなくなっているのです。

ではなぜ交易条件が悪化しているかというと、
㈰ 2000年代以降、輸入品の値段、特に原油を中心とした一次産品の価格が上がった
㈪日本から輸出する商品の価格競争力が失われた ⇒ 価格を下げないと売れない
からではないかと考えられます。

更に最近は円安になっても貿易赤字が増大しています。それは、国内にあった製造拠点が2009年以降の急激な円高で海外に移転した結果、日本から売るものがなくなった(例えばタイで生産して台湾に輸出しても日本の貿易統計には全く関係ない)からではないでしょうか。そしてその売上げは現地に外貨の形で滞留して、それは新たな資材調達や現地での投資に回り、日本には還流されません。

日本が成熟した債権国になろうとするのなら、自国通貨高傾向の方がメリットが断然大きいわけでして(㈰輸入物価が低下する=購買力の増大、㈪海外資産を安く買える、㈫海外からの対内投資が増える、㈬円建ての国債を海外投資家が買う)、もはや貿易立国ではなくなった日本は、このままですと交易条件の悪化が続くでしょうから、自国通貨の為替相場に考え方を抜本的に変える必要があると考えております。

更に交易条件が悪化するなか、実質賃金を上げるためには、労働生産性を上げる必要があります。そのためには、経済活動における無駄な規制であるとか慣習を撤廃することや経済活動の自由化を進めることが肝要です。政策当局には耳目を集める小手先の成長戦略を小出しにするのではなく、この国の産業構造を抜本的に改めるような規制撤廃を果敢に推進することが求められるのです。

Written by Perverse Boy

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