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電話にまつわる話 -wildernesswolf-

2015年05月22日

 証券会社の新人時代の話であるが、朝の2時間くらいは電話を取るのが仕事だった。
朝の時間帯の電話の全ては(既存の)顧客から先輩営業マンの誰かに対してかかって来る電話であるが、大抵は他の顧客との話中である。

折り返し電話するように言って名前と連絡先を聞くのだけど、お客さんからするといちいち説明するのはメンドクサイのか「分かっているはず」で切られてしまう。
「佐藤」とか「鈴木」とか良くある名前の人は、「どちらの佐藤様でしょうか?」と下の名前か町名などをできるだけ聞くのであるが、ちょっと珍しい苗字や地域独特の苗字はうっかり聞き忘れてしまうことがある。

「星さん??、オレの客には星さんが3人居るんだ。オメーは電話もちゃんと取れねーのか?」直ぐに先輩の怒声が飛ぶ。しかし、聞こうとしてもガチャっと切られてしまうこともある。そんな時も「オメーの対応が悪いのを客のせいにするな」と罵声が飛ぶ。
一見、不条理なようであるが、お客さんにちゃんと応えて貰うには、声のトーン、スピード、言い回し、など臨機応変に変えることが実は重要であったりする。

その後、異動になったリサーチ部門では、会長や社長から週に何度か電話がかかって来た。内線は部長や課長に直接かかってくるが、外線からかかって来ることも多かった。
「部長いるかな」「××さんは居る?」と自分の名前を言わないことが多い。
声を聞き分けて、「会長でいらっしゃいますか?」と反応することが重要だ。
その時に私だけがやっていたことがある。社長か会長かと感じた瞬間に立ち上がり、部長や課長の方に体を回しながら「会長でいらっしゃいますか?・・・少々お待ちください」と(部長にも)届くような声で言うのだ。

これは突然、会長や社長からの電話で身構えなくても良いようにするための上司に対する配慮だ。少なくともいきなり電話が繋がられるよりも5?10秒程度は(受ける側の)時間を稼ぐことが出来るはずだ。

これが奏功したのかどうかは定かではないが、社内でも”鬼”、”悪魔”と呼ばれていたK部長の朝会での”指導対象”になることは全く無かった。
「お前は俺を愚弄しているのか! 最初の説明と今言ったことは違うだろう。」
「貴様、俺を誤魔化そうとしているだろう。この野郎、舐めてるのか!」
「ワカラン・お前の言うことはちっともワカラン。中学生かお前は!」
「もう一度、最初から説明をやり直せ!お前は最初にこういったよな・・・。」
「おい、俺の時間をなんだと思っているんだ。くだらん時間を使わせるというのは会社の金を無駄にしているということだぞ。そんなことも分からんのか!」
「廊下に立っとれ!今日は仕事せんでいいから、終礼まで立っとれ」
「辞めちまえよ。そんな気持ちでやっているなら辞めちまえ。お前なんかいらねんだ」

いつも、激しく”指導対象”にされていた或る先輩からは「何で部長はお前には甘いんだよ」と不平を言われたこともある(しかし、はっきり言ってしまえば、その先輩は上辺では低姿勢に振舞っているが、上司に対してだけでなく、他人に対する気遣いが無いことが見透かされていたのだと思う)。

話は変わるが、直通以外の外線電話を全く取らない人が居る。こういう人にはダメな人が多い。直接自分の担当していること以外には全く関わらないようにしている人は、結局は、自分の業務範囲を狭くしてしまっている。会社には色々な電話がかかって来る。お客さんや、取引先、その他関係先、営業電話、等々。どっからどういう電話がかかってくるのかを知り、それに対する応対方法を身につけるだけでも仕事の幅は広がるはずである。自分にかかって来た電話を他の誰かに受けて貰っていることに対する感謝も無い。全体のために貢献しようという意識も低い。

最近は、インターネット・メールを使うことが増えた。また、電話もダイヤルインが中心であり、代表・グループ電話にかかって来る電話の数はめっきり減った。役割の分業化によってコールセンターが問い合わせに対応する会社も増えた。

その結果、若い人の業務対応力向上のための機会が減っているのかもしれないし、(他人に対する気遣いよりも)自分のことだけを集中してやる人が昇進しやすくなったのかもしれない。その結果、日本人のビジネススキルが低下していると考えるのはちょっとオーバーかも知れないが・・・・・。

余談ですが、皆に嫌われていたK部長でしたが、私は大好きでした。

By:wildernesswolf


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