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神の音 -Cranberry Jam-

2013年07月05日

?神の音?

先日吹奏楽の演奏会に行きました。会場に入ると広く綺麗なホールで、ステージ後ろのパイプオルガンが壮麗な雰囲気を醸し出していました。

世の中には、人間の可聴域の下限(20Hz)を下回る音(8Hz)を出すパイプオルガンがあるそうです。人間の耳に届かない以上もはやそれは単なる空気の振動でしかなく音とは言い難いですが、神に捧げる為の音階なのでしょうか。

場内は少しざわついていましたが、演奏者たちがステージ上に揃うと、月の裏側の岩のように静かになりました。誰かが唾を飲む音さえ聞こえそうです。ロマンスグレーの指揮者が両手を上げると、空気がピンと張りつめます。そして左手の指先で作った輪っかをパッと開いた瞬間、静かに打楽器がリズムを刻み始めました。右手はチューバへのシグナルです。輪っかを解き放つと重低音のソロが鳴り響きました。横隔膜が揺らされて体の内側から音が聞こえるようです。打楽器奏者はスティックを操りつつも、バッタを捕まえるメガネザルのように指揮者の動きを注意深く見ています。

チューバとコントラバスが地面を踏み固めると、その上でバリサクとバスクラがスクラムを組みました。あとは組体操のピラミッドのように、色んな楽器が折り重なっていきます。エッヂのない丸い音を出すホルン、伸びやかなクラリネット、物語を紡ぐオーボエ、遊び心いっぱいのトランペット、春風のようなフルート、そして空を自在に舞うサックス。ハープ奏者は有能なエステティシャンのように両手を弦の上で滑らせ、トロンボーン奏者は正確無比にロケットランチャーを打ち込む特殊部隊のようです。

全ての演奏が終わると、会場は滝壷のような拍手に包まれました。千人の聴衆と50人の演奏者が、絵の具を混ぜたように一つになるのを感じます。多くの聴衆がいたからこそ演奏者は持てる力を十二分に発揮したのでしょうし、会場にいる皆でこの神々しい空間を作り上げたのだという確かな一体感がそこにはありました。

「人はパンのみに生きるにあらず。神の口から出る言葉による」という聖書の一節の「神の口から出る言葉」とは、もしかしたら音楽のことかもしれない。ふとそう思いました。舞台上では金管楽器が照明の光を反射して、清流の水面のようにキラキラ輝いていました。

Written by Cranberry Jam

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