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天体観測 -Cranberry Jam-

2013年07月26日

「死んだらね、お星さまになるんだよ。」
まだ私が幼い頃、祖父がこう言ったことがあります。今にして思えば使い回された表現かもしれませんが、妙に納得したのを覚えています。
先日とある田舎の天体観測所に行きました。きれいに星が見えるランキングで日本一に輝いたこともある場所です。案内板も街灯もない真っ暗な山道をひた走ると、こじんまりとした天体ドームが忽然と現れました。中には「星のソムリエ認定証」が2枚誇らしげに掲げられており、1ヶ所にソムリエが2名いるのは珍しいとのことでした。
まずは屋外で望遠鏡を使っての観測です。目が暗闇に慣れてくるにつれ、電球を調光器で明るくするように徐々に星の輝きが増していき、視認できる星の数も際限なく増えていきました。星座を構成する主役の星の隙間を、名も無き脇役の星たちが埋めています。
「ちょっと雲が出ていますが、今日は風が無いですね。」風が無いと大気が安定してよく見えるのだそうです。「おぉ、これはスゴい。今日は鮮明に見える。」望遠鏡のセッティングをしていたソムリエが声を漏らしました。肉眼でみると何の変哲も無く見える星も、スコープを通して見るとレコードのように薄くて溝のある円盤状の輪っかを纏っていました。「これから少しずつズームしていきます。クレッシェンドです。」倍率が上がると輪っかの1つ1つの筋まで見えてきました。「今のでメゾフォルテ。次はフォルテです。」ついには土星の衛星まで見えました。「ここまでクッキリ見えることは稀です。今日は仕事を忘れて見入っちゃいました。」ソムリエの楽しそうな様子が伝染して、私も楽しくなりました。
一通り色々な星を眺めた後に最後に見た星は、肉眼ではやはりただの星ですが、望遠鏡で見ると連星でした。大きいオレンジ色の星に寄り添うように、少し小さめの水色の星が並んでいました。
「あ…、おじいちゃんとおばあちゃんだ。おじいちゃんが言ってたことは本当だったんだ。」何故だ分かりませんが、直感的にそう思いました。
「死んだらね、お星様になるんだよ。だからいつも見守っているからね。」祖父は早くに他界しました。まだ幼かった私は、本当にお星さまになったんだと信じていました。そして今また、そう信じてみようと思いました。

Written by Cranberry Jam

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