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バーチャル・マネー -Cranberry Jam-

昔々ある所に金細工師のスミスさんがいました。金の加工や金貨の鋳造で生計を立てていました。スミスは泥棒から金塊を守る為に、厳重な金庫を持っていました。ある時お金持ちのビルさんが「その厳重な金庫で、私の金貨を預かってくれないか?」と申し出ました。スミスは金貨を預り、その証拠としてビルに「預り証」を渡しました。他のお金持ちも、泥棒に盗られないようスミスに金貨を預けるようになりました。

しばらくするとスミスはある事に気づきました。「誰も金貨を取りに来ない」。市場では不思議なことが起こっていました。スミスが書いた「預り証」で取引されていたのです。その預り証をスミスの所に持って行けば、金貨を受け取れると皆が知っていたからです。そこでスミスは、悪知恵を働かせました。「皆から預かった金貨が私の金庫に眠ってる。これを人に貸して利息を取ろう!」。するとスミスの目論見は大当たり。「これは儲かる!」。元手いらずの商売です。他人の物を貸して利息をもらうのです。でもビルさんにバレてしまいました。「僕の物を人に貸して自分だけ儲けるな!」「ごめんなさい。じゃあ儲けた利息の一部をお支払いします」。

しばらくするとスミスにとって摩訶不思議なことが起こり始めました。金貨を借りに来る人たちが「金貨の現物じゃなくて預り証で貸して欲しい」と言うようになったのです。預り証は重たい金貨よりも取引に便利で、すでに市場で広く流通してたからです。スミスは言いました。「いいですよ、預り証で貸しましょう。でも返すときは今まで通り利息を付けて金貨で返して下さいね」

しばらくするとスミスは、とんでもないことに気づきました。「金貨を貸すのに、金貨は必要ない。ただ紙に『預り証』と書くだけ。いくらでも貸せば良い。返してくれなくても痛くも痒くもない。返してくれたら丸儲け!」。スミスは、アッという間に国で1番の大金持ちになりました。その国の徴税権を持つ王様よりもお金持ちになりました。

王様は、スミスの行為を苦々しく思いながらもそれを禁止しませんでした。すでに新しい取引システムとして商業の潤滑油になっていたからです。逆に、法律で許可しました。「金貨が無くても預り証を発行して良い」。王様はスミスの詐欺まがいの行為を合法にしました。ただし制限をしました。「預り証の発行は、現物の金貨に対して100倍まで」。ついには王様も、スミスから「預り証」を借りるようになりました。

さて話は現実に戻ります。もともと紙幣(銀行券)とは、「預金者の債権証書」であり、「銀行へ預けた金貨をいつか返還してもらえる」という性質のものでした。ところが1971年ニクソン大統領は、何の前触れも無く突然、「ドルと金の交換停止」を発表します。ニクソンショックです。これによりお金の価値を裏付けるものが何も無くなりました。お金は糸の切れた凧のように、不安定なものとなっていきます。現在、全世界で一日に産出される商品とサービスの総額は1000億ドル。それに対して外国為替取引は一日で2兆ドル、デリバティブ取引を足すと3兆ドル。実体経済はマネー経済のわずか3%でしかありません。

最近、ビットコインが巷を賑わせました。分散型仮想通貨であるビットコインは、それを管理する中央機関が存在しないため、決済にコストがかからないという優位性があります。例えば、「ユーザーが投稿した作品に、気に入った人が10円の投げ銭をするサイト」のようなWebサービスが可能になります。現行の通貨では決済コストが高いため、ネット上で10円の商売が成立しません。

ビットコイン取引所への世界同時多発的な大規模サイバー攻撃により、現在ビットコインへの信頼が揺らいでいます。そもそもお金とは、多くの人が、それを価値のあるものだと信じているから成り立っているものです。ビットコインのような単なるデジタルデータが価値を持つのも、それに価値があると信じている人が一定数いるからです。今後ビットコインのような新しい取引システムがどうなっていくのか、気になるところです。

Written by Cranberry Jam

[03.14.更新]