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お土産orスーベニア -Cranberry Jam-

2013年05月17日

何年か前の海外旅行での出来事。渡航先で現地ツアーに申し込んだところ、参加者の多くが欧米人でした。船で移動するツアーだったのですが、移動中に時間を持て余したので何気なく折り紙をしていたところ、いつの間にか数人が集まってきて、私を観察し始めました。そして鶴が出来上がると、なんと「ブラボー」と拍手が起こりました。折鶴をイギリス人にあげると「ロンドンの雑貨屋で10ポンドで売れるクオリティーだ!」と少し大げさに喜んでくれました。他にも何人かに欲しいと言われたのでリクエストに応じると、鶴を折る様子をビデオで撮影する人さえいました。銀座の鳩居堂で買った京友禅柄の千代紙が、予想以上に大活躍しました。

「ビューティフルな紙だね。どこで買えるの?」と聞かれたので、「日本だよ。誰かへのお土産になるかも、と思って日本から持ってきたんだ」と答えました。「スーベニア?」とキョトンとしているので、「ギフト」と言い直したところ何とか通じたようでした。お土産って英語でスーベニアじゃなかったけ‥と思いつつ、後日お土産について調べてみたところ、色々な事が判明しました。日本のお土産文化は、どうも少し特殊なようです。

例えばアメリカでホームステイする場合、私たち日本人は「ホストファミリーになんかお土産を持って行かなくちゃ」と考えます。ところがお土産を渡しても、相手はなぜそれを貰ったのかを疑問に思います。「よろしくお願いします」に相当する英語がないのと同じです。そのような概念がないので、初めて会うのになぜ物をくれるのか分からないのです。しかも、日本の伝統文化を表す物を選んで和食器や掛け軸や日本人形などを渡しても、必ずしも喜ばれません。インテリアに強いこだわりを持つアメリカ人は多く、部屋ごとに色やテーマがあったりする為、日本好きで日本人形を飾るための棚があるような家でもない限り、ガレージセール行きになります。日本人のように、木彫りの熊の隣にハワイのフラダンス人形を飾ったりしないのです。

旅みやげも事情が異なります。日本では旅のお土産は同行しなかった人向けのものであり大抵は食品であるのに対し、スーベニアは旅に出かけた当人の思い出として買うもので、そのため多くは腐ることの無い非食品です。日本の観光地には八つ橋や赤福や白い恋人などご当地のお菓子がありますが、欧米の観光地で売られる物はいかにも自分の部屋に飾りそうな工芸品が大半で、人に配ることを前提にした名物菓子はあまり見かけません。ハワイのマカダミアナッツは日系人が考案した物であり、モンサンミシェルのプラールクッキーは主に日本人向けに売られてるのだそうです。

日本のお土産文化は、伊勢神宮と深い関係があります。伊勢神宮への参詣は、江戸時代の庶民にとって一生に一度の夢でした。旅費が高額だったために、「お伊勢講」という仕組みがありました。村でお金を出し合って、くじ引きで選ばれた代表者だけがお伊勢参りをするのです。村人は代表者に餞別を渡して自分の分の祈願を頼みました。神宮参拝をした代表者は、帰る時にみんなへの「宮笥(みやげ)」を買って帰ることになっていました。宮笥とは、神社でもらう御札を貼る板です。お伊勢参りが盛んになるにつれ参拝客目当てに特産物を売る店が増え、やがてそれらの品々も「みやげ」と呼ばれるようになりました。職場や友人やご近所など普段お世話になっている人にお土産を渡すのは、村の代表者としてみんなへの宮笥を持ち帰ったことから生まれた習慣です。

一方西洋では、スーベニアは主に旅先での自分のメモリアルであり、家族などごく親しい「個人」へプレゼントすることはあっても、「みんな」に買って帰るものではありません。欧米人に旅のお土産を渡しても、「何それ?要らない」と言われることさえあります。貰う習慣がないからです。渡した方としては「なんで受け取ってくれないの?せっかく買ってきたのにぃ」と思います。

「饅頭、最中、煎餅、どれにしようかな」などとお土産に何を買うかで悩むことも、私たちにとっては旅の1ページです。「あっ、あの人に買い忘れた!」と慌てて空港の売店で買ったりもします。これらのことを思うと、日本のお土産文化はとても良い風習であるような気がします。きっとお土産のもたらす経済効果も大きいでしょう。いつの日か、「MOTTAINAI」のように「OMIYAGE」という単語が広まる日が来るかもしれません。

Written by Cranberry Jam

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