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追悼 -藤根靖晃-

2013年09月20日

いつかその日が来るとは思っていたが・・・・。
山内溥氏の死去は、一つの時代の終焉を象徴しているだけでない。
私の中でも何か大切なものが失われてしまったような感じがしている。

私は、特に『師』を持たない。勿論、尊敬する人が居ないわけでも無いし、断片的には色々な方に何かを教わってきたし、今もそうである。
しかし、直接お話をしたことは殆ど無いが、山内溥氏が居なかったらアナリストとして評価を受けることは無かったかもしれない。だから、山内溥氏は紛れも無く『師』なのである。
1995年の初頭に「ゲーム・プラットフォームのサイクル(寿命)は、ソフトウエアの供給過多が原因で生じる」という仮説を提唱した。中古市場が生じる理由やソフトメーカーが取るべき戦略などその概念から派生したものも多い。今では多くの人が認識していたり、あるいは市場構造が変わってしまったことで何の役にも立たないロジックであるが、当時はビジネスモデルという概念もあまり普及していなかったこともあり、このロジックだけで5年近く楽に飯が食えた(理解できない投資家さんが多かったお陰でもあるが)。

そのロジックに、私はただ気付いただけであり、考えたものでも無い。
考え、構築したのは山内溥氏。
山内氏の経営説明会や展示会での講演、新聞・雑誌に書かれたコメントをつぶさに読み、任天堂の施策と照らし合わせて、何を考えているのかを推測する。山内氏は具体的な戦略については語らないが、言葉の隅にはヒントがある。
何故、任天堂は高い生産委託費を取るのか?(もちろん儲けるためではあるが、別の理由もある)何故、マリオクラブを創ったのか? 何故、ソフトメーカーに開発本数の制限を行ったのか?などなど。
全てが綺麗に繋がり解き明かせたある瞬間は、恥ずかしながら”自分は天才じゃないか”と思ったこともあった。もちろん天才は、私ではない。山内溥氏である。

古い説明会の録音テープが残っているはずだ。
デジタル化してもう一度あの語り口を聞いてみたい。
「映画のようなゲームとは一体なんですか? ゲームはゲームなんです。映画ではない」
激昂したような口調には、(当時)離反したスクウェアへの怒りに混ざって、ゲーム屋の誇りが聞き取れるはずだ。

有難うございました。
ご冥福をお祈り申し上げます。

藤根 靖晃

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