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アナリストコラム

経済指標を一つだけ見るなら景気動向指数CI一致指数 -客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2017年04月07日

(要旨)
・景気の現状に関係深そうな9統計を「加重平均」したもの
・先行指数は信頼性が今ひとつ
・本来はGDP統計を見たいが、大きく振れるので避ける
・なぜ米国と異なり、日本では雇用統計を見ないのか?

経済指標は数多いが、景気予測を職業にしていない一般人が見るべき統計を一つだけ挙げるとすれば、景気動向指数CI一致指数である。有名な統計ではないが、グラフを見れば景気の状況が一目でイメージ出来る。

・景気の現状に関係深そうな9統計を「加重平均」したもの
景気動向指数という統計は、景気に関係ありそうな経済指標を集めて来て、それらを加工して一つの数字にしたものである。加工方法は二通りで、それぞれの結果はDI、CIと呼ばれている。DIは、其々の数字が「増えたか減ったか」を問題にするもので、CIはそれぞれの数字が「どれくらい増減したか」を問題にするものである。各指標を「加重平均」したイメージであり、激増か微増かが反映されている分だけ、CIの方がイメージを掴みやすい。実際にはたとえば指数と前年比を加重平均する事は出来ないので、計算式は工夫してあるが。
DIにもCIにも、先行指数、一致指数、遅行指数がある。これは、景気に関係ありそうな経済指標を「景気より先に変化するもの」「景気と同時に変化するもの」「景気に遅れて変化するもの」に分類してから集計する事により、3つの結果が得られるというものである。

一致指数の計算に用いられている指標は9つある。「生産指数(鉱工業)」「鉱工業用生産材出荷指数」「耐久消費財出荷指数」「所定外労働時間指数(調査産業計)」「投資財出荷指数(除輸送機械)」「商業販売額(小売業、前年同月比)」「商業販売額(卸売業、前年同月比)」「営業利益(全産業)」「有効求人倍率(除学卒)」である。
鉱工業関係の指標が数多く採用されている。日本経済がサービス化し、GDPに占める鉱工業のウエイトが約2割である事を考えると、不思議な気もするが、サービス業よりも鉱工業の方が変動が激しいこと、鉱工業生産が増えると運輸業の活動が活発化すること、等を考慮して選んだものと思われる。
ちなみに、グラフは「景気動向指数」で検索し、内閣府のホームページで「◯月分の概要」というPDFを見れば良い。ただし、統計は振れるので、単月の動きではなく、3ヶ月後方移動平均(過去3ヶ月分の平均をグラフ化したもの)などで景気の大きな流れを見る必要がある事に要注意。

・先行指数は信頼性が今ひとつ
景気の現状も知りたいが、それ以上に先行きを知りたい、というわけで、先行指数を重視する人もいるが、先行指数どおりに将来の景気が動くわけではないので、筆者としては、先行指数はあまり重視していない。
先行系列の計算には12のデータ系列が用いられていて、中には「新設住宅着工床面積」のように、ほぼ確実に数ヶ月後の景気を予測させるものもあるが、たとえば東証株価指数や新発10年物国債利回りのように、数ヶ月後の景気との相関が低いものも数多く含まれているし、実際に過去の景気先行指数のグラフが数ヶ月後の景気動向と一致しているわけでもない。ある程度の一致は見られるので、景気を予測する上で「使えない」という事ではないが、信頼しすぎないように、「一応の参考」程度と考えておくべきであろう。

・本来はGDP統計を見たいが、大きく振れるので避ける
本来であれば、実質経済成長率(GDP増加率からインフレ率を引いた値)を見るべきである。景気動向指数が景気に関係ありそうな統計の合成であるのに対し、GDP統計は景気の現状そのものだからである。本来であれば、GDPは日本経済の活動すべてを網羅しているので、これが増えているという事は売上が増え生産が増え、経済活動が活発だという事を意味しているはずである。それこそ「景気が良い」という事のはずなのである。
もっとも、日本のGDP統計は振れる。触れ幅が大きいという事もあるが、ゼロ近傍で振れると、前期比の成長率がプラスになったりマイナスになったりするので景気判断に使いにくいのである。逆に言えば、何四半期か続けて前期比プラスが続いたら、景気は比較的安定して良好だと判断して良い、という事になろうか。

・なぜ米国と異なり、日本では雇用統計を見ないのか?
米国の雇用統計が非常に重要だと思っている投資家は多い。「米国で最も重要なのが雇用統計であるならば、日本でも雇用統計を見るべきだ」と考えている読者もいるかも知れない。では、なぜ筆者は日本の雇用統計ではなく景気動向指数を選んだのか。

最大の要因は、本稿が「景気を知る」ためのものであって、「株の売買で儲ける」ためのものでは無いからである。株の売買で儲けるためには、他の投資家が注目している経済指標を見る必要があるが、景気を知るためには幅広い経済指標に目配りする必要がある。

タイミングの問題も重要である。市場は個々の統計に素早く反応するので、株で儲けるためには個々の統計を注視する必要があるが、景気を知るためには「一喜一憂せず、幅広い統計を腰を据えて眺める」事が必要である。上記のように景気動向指数は複数の統計を合成したものであるから、当然ながら発表のタイミングは個々の経済指標よりも遅いが、景気を知るためには、それでも充分なのである。

そもそも投資家が米国雇用統計に注目しているのは、それが最重要な景気指標だからではなく、それが他の投資家に注目されているからである。プラザ合意の頃には、最も注目されていたのは米国の貿易収支であったし、その前にはマネーサプライ(現在のマネーストック)が注目されていたが、最近ではいずれも注目されていない。金融市場は「美人投票」の世界なので、他の投資家が注目しているものが注目されるのである。その意味では、日本の経済指標で投資家が特に雇用統計に注目しているわけでは無いので、仮に本稿が株で儲けるためのものであったとしても、日本の雇用統計は採り上げなかったはずである。

(4月3日発行レポートから転載)

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