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おしえてアナリスト

炭素繊維の今後の動向について~11/3期から需要回復、航空機用途拡大の動きに注目~

Q 質問

帝人(3401)や東レ(3402)、三菱レイヨン(3404)などが製造している炭素繊維は航空機用途での締結発表の報道が相次ぎました。炭素繊維の今後の動向について教えてください。

A 答え

ご質問ありがとうございます。炭素繊維は足元で回復基調にありますが、TIWではこの先年率15%超の成長が5年以上継続し、2015年には現在の2倍強の6万数千トンまで市場が拡大する可能性があると考えています。東レ、帝人(製造は子会社の東邦テナックス)は共に11/3期は炭素繊維事業で営業赤字が継続する見込みですが、12/3期には黒字化し、徐々に業績に貢献する公算です。以下では、炭素繊維の概略と現在カバーしている東レと帝人の動向を紹介します。

まず、炭素繊維は原材料によりPAN(ポリアクリルニトリル)系とピッチ(コールタールなど)系に区分されます。炭素繊維市場の90%程度はPAN系です。PAN系は鉄より強度が強くアルミより軽く、弾性率、引張強度に優れています。東レや帝人が製造しているのはPAN系です。なお、ピッチ系は三菱ケミカルホールディングス(4188)の子会社三菱樹脂やクレハ(4023)などが製造しています。ピッチ系はロボットのアームや輪転機のロールなどに使用されています。

炭素繊維はアクリルニトリルを主原料に製造され、加工度合いで3区分されます。特殊アクリル繊維であるプリカーサー(原糸)→プリプレグ(炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた半硬化状態のシート状などの中間材)→コンポジット(加工品)です。

参入メーカーは東レ(市場シェア約35%)、帝人(同20%弱)、三菱レイヨン(同15%強)の3社で市場の約70%を占めています。その他は台湾プラスチックス、共に米のヘクセル、サイテックなどです。2007年の市場規模は3万1,000トンでしたが、2008年秋からの景気低迷により市場は縮小し2009年は2万3,000トンまで落込みました。ただ、2010年は2万7,000~2万9,000トンまで回復、2015年には6万数千トンまで伸長する見込みです。経済産業省では6月3日に発表した「産業構造ビジョン2010」の中で2010年は2万7,000トン以上、2020年には12万5,000トン以上の需要が見込めるとの見解を示しています。

2009年の用途別シェアは風力発電のブレード(羽根)や自動車部品など一般産業用途は約60%(1万3,940トン)、ゴルフシャフトなどスポーツ・レジャーは約22%(5,210トン)、航空機用途は約18%(4,310トン)でした(出所:東邦テナックス)。なお、景気低迷による需要減から2008年夏に比べ30~40%単価は下落しましたが、足元では10~15%の値上げが浸透している模様です。2009年の単価は、一般産業とスポーツ用途では1,500~2,000円/㎏、航空機向けの加工品は約8,000円/㎏、総平均では3,000円/㎏程度とTIWでは推定しています。なお、自動車用ではF1等のレース車種の多くは炭素繊維が使用されています。

今後5年程度は航空用途の伸びを主因に年率15%程度の成長が見込まれます。東レが独占供給契約を結んでいるボーイング社は、計画に対して約2年遅れましたが2009年12月に炭素繊維を一次構造材(主翼や胴体など)に使用したB787の初飛行を実施しました。B787などの航空機は炭素繊維を1機当たり約35トン使用される見込みであり、ボーイング社は徐々に生産台数を増加させる計画です。また、東レは4月28日、独ダイムラーAGと炭素繊維複合材料の自動車部品の共同開発契約を締結、続いて5月10日にはEADS社とエアバス向けを中心とする炭素繊維プリプレグの供給について2025年までの長期供給基本契約を締結したと発表しました。基本契約のため、数量や金額などについては今後取決めが行われるようです。

帝人も航空機向けに拡販が期待できます。これまで同社はプリカーサー販売からプリプレグビジネスを本格化させます。航空機向けの販売は、プリカーサー→プリプレガー(半製品を製造するメーカー、ヘクセル、サイテックなどが強い)→部品メーカー→航空機メーカーの流れが一般的です。帝人は航空機向け売上高の80%がプリカーサー販売だったようです。6月28日に東レと同じくEADS社との長期供給契約締結を発表しました。プリカーサーおよびプリプレグを直接供給する内容です。これまではプリカーサーの供給はしていましたが、プリプレグ供給契約を締結したことを受けドイツに製造設備の新設を決定しました。11年3月の生産開始を予定しています。同社は2015年には航空機用途市場が1万トン超、25年には約2万トンと予想しており、25年には航空機分野での売上高1,000億円超を目指します。TIWではこの売上高ピーク時には営業利益150億円は可能と考えています。

TIWでは炭素繊維市場は寡占状態が継続すると見ています。その理由はプリカーサーの製造難易度が高いからです。炭素繊維はプリカーサーの品質に拠るところが大きいのですが、このプリカーサーは各社で重合や溶液が異なり技術共通性が少なく、製造方法はブラックボックス化しているからです。数年前までは各社プリカーサーの販売に対しても慎重でした。

今後の炭素繊維については、自動車用途の動向に注目しています。自動車向けは欧州の環境規制の流れを受けて、炭素繊維の使用により軽量化が進み燃費向上が期待されています。しかし、競合品の鋼材に比べ10倍ともいわれる価格の問題、炭素繊維が高品質でありオーバースペック気味であること、自動車向けに量産技術の確立など、今後解決すべき課題があります。これに対して、航空機用途は欧州の景気動向がやや不安材料ではありますが、12/3期からの市場拡大に伴い、各社の営業利益に徐々に貢献すると考えます。

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