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アナリストコラム

10/3期の業績見通しの発表が今月末から本格化 -佐藤謙三-

2009年04月10日

いよいよ今月末から、10/3期の企業業績予想の発表が本格化する。
株価はどれだけ先行して企業業績を織り込むと考えているのか、と一般の投資家に聞かれれば、私はこれまでこのように答えてきた。わかることは数年先の材料まで織り込むことがあるかもしれないが、わからないことは明日の材料も織り込まない。
投げやりな応対に思われるかもしれないが、もしも株価が先の出来事をすでに織り込んでいるとすれば、明日いきなり主要工場が爆発したとか、工場から石油がでたというような材料に株価が上下しないことになるが、そんなことはない。また金鉱山が発見されたような場合、埋蔵量の評価を株価は瞬間的に織り込むことが多く、数年先まで織り込んだとも言えよう。
株価は企業業績にどの程度先行するかは全く意味がないという意味ではなく、統計的な処理をすると9カ月先行しているというような分析結果を以前見たことがある。おそらく、年度の最初の業績予想時に、その期の業績をある程度織り込むことが確率的に多いということを意味するのだろう。四半期決算が本格化する前なので、従来ほどは4月?5月の決算発表に重きは置かれなくなっているかもしれないが、それでも、本年の株価を予想する上で重要な時期にさしかかったといえよう。

全企業ベースでは、10/3期の業績の平均的な見方は、概ね10%?20%の経常減益というところか。大きな変化がないときであれば、一般の投資家にとって年度ベースでの業績予想でもそれほど支障がないと思うが、とにかく09/3期が上期と下期では全く様変わりとなったため、今回は、四半期ベースか少なくとも半期ベースでのチェックが必要だろう。
私が担当している大半の素材関連企業(石油、繊維、紙・パ、鉄鋼、非鉄金属、セメント等)で言えば、10/3期の経常増益の可能性の大きな業界は、石油、紙・パ、セメント。減益の可能性の大きいのが鉄鋼株。非鉄金属、繊維は個別企業によって差はあるもののほぼ横ばいと考えている。

このアナリストコラムを書いている日に、新日鉱ホールディングスの10/3期業績予想の観測記事が日経新聞に掲載された。09/3期の経常赤字780億円(推定)に対して、10/3期は一転1,000億円の経常黒字に転換すると言う内容で、原油価格や銅などの非鉄金属価格が現状水準で推移すれば、09/3期に計上した在庫評価に絡む減益要因が10/3期には一転して増益要因になることが主な背景。特にアナリストのコンセンサスとそれほど離れていた訳ではないが、当日の株価は意外に好反応。一部4月?5月の危機説が根強いようだが、10/3期の好業績予想には比較的好反応なことから、危機説が遠ざかっているように思える。

企業業績や株価の下方リスクがあるとしたら、本年後半以降の国内の個人消費が一層冷え込むことかもしれない。経済用語でいうところのいわゆる「合成の誤謬」※で、09/3期末にかけて、人員削減を含む事業構造改革を大企業が一斉に実施したことが、将来の個人消費低迷に繋がり、さらに生産調整を迫られて悪循環に陥るリスク。各社の一連の事業構造改革は、足元の低い稼働率が続くと仮定しても、黒字を確保するのが可能な水準まで固定費を切り下げたもの。
減価償却費などの固定費は急に下げることができないため、必然的に人件費の削減(給与カットや人員削減)が実施された。各企業にとっては、景気沈滞期には生き残りのため従業員を解雇し、生産を減らす構造調整に取り組むのが適切な対応ともいえるが、結果は不況の深刻化という災難を招くことになる。個別経済主体にとって正しいことが、国家経済にも有益だとは限らないということ。このギャップを、国の一連の経済対策でどれだけ埋めることが出来るかが本年株価のポイントになると個人的には考えている。

※合成の誤謬—良いことだと思って皆が一斉にやったら、必ずしも結果が良いことにはならない。ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロの視点では、意図しない結果が生ずることを指す経済学用語。

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