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アナリストコラム

2020年の景気は「薄曇り」だが、突然の嵐に要注意 -客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2019年12月25日

■2019年の景気は「薄曇り」
■2020年もメインシナリオは「薄曇り」
■最大のリスクシナリオは米中冷戦の激化
■中国、米国の金融危機もリスクシナリオ
■日本への影響は限定的と期待

(本文)
■2019年の景気は「薄曇り」
2018年の景気は「快晴」に近かったが、2019年の景気は若干悪化したため、18年ほど好調では無かった。米中貿易戦争自体の影響は限定的であったようだが、米中関係が「覇権を掛けた冷戦」の様相を濃くしつつある事から、世界中の企業経営者が「先行きが不透明だから、設備投資は1年待って様子を見よう」と考えた事が影響しているようだ。

もっとも、失業率の低さや企業収益の高水準などを考えると、曇天というほどではなく、「薄曇り」といった表現が良いであろう。

19年10月の経済指標は悪かったが、経済指標は振れるので、単月の指標だけで判断するのではなく、11月分と12月分を見てから判断すべきであろう。

筆者としては、増税幅が前回より小さかったこと、ポイント還元等々の景気対策が講じられたこと、などを考えると、景気そのものが落ち込んだというよりも、単月の経済指標の振れによるものだと考えている。

消費増税前の駆け込み需要があった関係で、その反動減が10月に現れたことに加え、大型の台風19号が襲来した事の影響も大きかったはずだ。店を閉めた所も多く、外出を控えた消費者も多かったようだ。台風が通り過ぎた後も、被災地では消費どころでは無いだろうし、「被災地が苦しんでいるのに、私だけが楽しんでは申し訳ない」といった自粛の動きもあったようだ。

したがって、11月と12月の消費は悪く無いと考えているが、仮に悪い数字が出た場合には、その理由を知りたくて悩む事になるはずだ。そうならない事を祈っているが。

余談であるが、災害の後の消費の自粛は、誰も喜ばないので、無用だと筆者は考えている。むしろ、「被災地の特産品の酒と肴で大いに盛り上がろう」と周囲を誘っているのだが、筆者一人の努力ではマクロ的な個人消費の落ち込みを和らげる事は出来ていないようだ(笑)。

■2020年もメインシナリオは「薄曇り」
景気は自分では方向を変えない。したがって、何事もなければ景気は横ばいか若干下向きという事で、2020年も「薄曇り」が続くだろう。

日本政府が経済対策を掲げていること、米国のFRBが利下げを中断したのは景気が悪く無いとの判断だろうということ、諸外国の景気先行指数が下げ止まった模様であること、等々を考えると、日本の景気は下向きというより横ばいか若干の上向きかも知れないが、いずれにしても「薄曇り」がメインシナリオとなろう。

東京オリンピックが終わった後に不況が来る、と考えている人もいるようだが、それは杞憂であろう。前回の時とは日本経済の規模が全く異なるので、「経済全体に占めるオリンピック特需のウエイト」が今回はそれほど大きくないからだ。

オリンピック特需で労働力不足になっているから、オリンピックが終わってから着工しよう、と待ち構えている建設プロジェクトも多数あるようで、それも景気を下支えすることになろう。

■最大のリスクシナリオは米中冷戦の激化
米中関係は「貿易戦争」と表現される事が多いが、じつは覇権を争う冷戦の様相を強めつつある。米国議会は「中国は不正な手段で技術を盗み、それを用いて米国の覇権を脅かそうとしている。いまのうちに叩き潰さないと危険だ」と考えるようになっているのである。

そこで、将来的には米中関係は冷戦時代の米ソのように、ほとんど相互に交流が無いといった所まで行くかもしれない。問題は、「どこまで行くか」と「どの程度のスピードか」である。

米中の経済は密接に関係しているため、万が一にも一気に関係が断絶するような事になると、世界経済に大混乱が生じるであろう。

もちろん、米中両国政府も、それは熟知しているから、そうした事態は避けようとするだろうが、喧嘩というのは何が起こるかわからない怖さがある。リスクシナリオとして、頭の片隅に置いておきたい。

■中国、米国の金融危機もリスクシナリオ
中国はかねてから、過剰債務問題を抱えていたが、ここへ来て倒産等が増加しはじめているようだ。中国政府の危機対応能力の高さは、リーマン・ショックの影響を見事に乗り切った事で思い知らされているので、今回も乗り切れるというのがメインシナリオだろう。

しかし、過剰債務問題が中国共産党内部の権力闘争の人質となり、何も対応できない間に事態が深刻化してゆく、といった可能性も皆無ではない。リスクシナリオとして、頭の片隅に置いておきたい。

米国でも、低格付の与信が増加している。何らかの拍子にデフォルトが増加し、貸し手が一斉に低格付けの与信に慎重になると、倒産が増加し、それが一層貸し手を慎重化させる、といった悪循環に陥りかねない。

場合によっては、低格付けの債券に売りが殺到して買い手がつかなくなり、リーマン・ショックの小型のような事態が発生するかも知れない。そうなると影響は深刻である。

中国で信用収縮が発生しても、直接の影響は中国国内にとどまるが、基軸通貨である米ドルで信用収縮が発生すると、世界中の融資や投資に多大な影響を及ぼしかねないからである。可能性は少ないが、リスクシナリオとして頭の片隅に置いておきたい。

■日本への影響は限定的と期待
もっとも、リスクシナリオの場合でも、日本経済への影響は限定的であると期待される。仮にリーマン・ショック並みのショックが海外から来たとしても、国内経済への悪影響は当時よりはるかに小さいものであろう。

それは、少子高齢化が国内景気の波を小さくしているからである。一つには、労働力不足なので輸出企業をリストラされた労働者が次の仕事を見つけやすいこと、一つには高齢者の所得と消費が安定している事である。この点については、次回に詳述することとしたい。
                                                                                                                                      (2019年12月23日記)

(12月25日発行レポートから転載)


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