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アナリストコラム

BOPビジネスのポテンシャル -服部隆生-

2009年07月24日

カメラ、テレビ、PC、携帯電話などデジタル機器は先進国ではほぼ行き渡りつつある他、こうした地域の人口年齢構成を考慮すれば、今後の成長余地は大きくないと考えられる。パナソニックなど民生電機大手は中長期的な収益拡大には新興市場への拡販が重要と認識している。新興国では先進国並みの購買力を持つ富裕層を従来は対象としていたが、近年の経済発展により中間所得層の購買力も高まっており、低価格のボリュームゾーン市場の本格開拓に注力している。同社によれば、next rich(中間所得)層は中国で約7,300万人(全人口の5.5%)、インドでは約7,500万世帯(全世帯数の3割)を占めるという。この急成長を続ける市場でコスト競争力・量産効果を発揮しシェアを獲得できれば、中期的な収益拡大の重要な貢献役となりうるだろう。

ここでは更にその先を考えてみたい。世界にはおよそ68億人の人間がいて、富裕層を頂点とするピラミッド型の所得分布を成している。数年前からBOP(Bottom又はBase of the Pyramid)ビジネスという言葉を聞くようになった。世界ではこのピラミッドの底辺を占める40億人以上の人々が年間所得3,000ドル未満で暮らしている。こうした貧困層に対して、これまでは国際機関や個人の慈善・援助などなされてきたものの、世界の貧困問題の根は複雑で、問題が解消しないばかりか、むしろ世界の貧富の差は拡大している。こうした社会の底辺で人口的には最多層を形成する人々向けにビジネスは成り立つのだろうか?

実は、既に一部の企業では自社の持ち味を活かした独自の製品を展開し始めている。ユニリーバのインド子会社では石鹸やシャンプーを小袋に分けて、1回2円程度で「より多くの人に」「より高い頻度で」消費してもらうビジネスモデルを築いた他、ネスレもインドではコーヒー1杯分(約2円)や少量のチョコレートなど小分けした商品で成功している。ヘルスケア(製薬を含む)や食品業界が市場規模的には大きいとみられるが、インフラやエネルギー、テクノロジー分野も貢献余地は大きいだろう。ノーベル平和賞を受賞したムハマドユヌス氏の創設したグラミン銀行に代表されるマイクロファイナンスの貢献などにより、貧困層の人々が自立し就業機会が増えていることも購買力の向上に寄与している。

電機業界でもフィリップスはインドで約1,200円の薪ストーブや約2,000円の電気の要らない照明機器(太陽電池で蓄電)など、農村部で地域固有の特性を汲み取り、価格も極端に抑えた製品の積極販売を進めている。ここでは最初から貧困層のニーズに的を絞った超低コストでの商品開発がポイントとなる。これまで需要がないと考えられていた分野でも、こうした独自の商品開発次第で事業機会は大きく広がってくる。概して欧州勢はBOPビジネスで世界的に先行しているとの見方もできるだろう。一方、日本の総合電機大手もインフラ、技術力、幅広い商品群など必要な要素を持ち備えており、将来的にBOPビジネスは有望といえるのではなかろうか。貧困状態から脱し生活環境が改善すれば、もともと人口は多いことから消費パワーの向上効果は想定以上に大きいだろう。
収益性の観点からは、高額のハイエンド商品と比べて低収益となるのはやむを得ない。しかし、今後は社会貢献に対する世界の意識の高まりから、こうした分野に注力する企業姿勢が評価され、中長期的にブランド価値が向上することも考えられる。今後の日本企業の取組みに期待したい。

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