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アナリストコラム

米国の保護主義が日本株にプラスに働く可能性を考える -客員エコノミスト ~塚崎公義 教授 -

(要旨)
・一般論としては、自由貿易は双方の利益
・保護貿易のメリットは、米国に関しては大
・保護貿易のデメリットは、米国に関しては小
・米国の保護主義は、日本経済への影響は小
・米国の株高、ドル高は日本株にプラスの可能性
・トランプ大統領が日本の株高要因か否かは、未知数

(本文)
・一般論としては、自由貿易は双方の利益(経済初心者向け解説)
経済学の教科書には、自由貿易は双方の利益になる、と書いてある。お互いが得意な物をたくさん作って交換することで、苦手なものも自分で全部作る自給自足よりも、お互いが豊かに暮らせる、というのである。
日本は米国から食料を輸入して自動車を輸出している。日本は土地が狭いため、食料の生産は不得意であり、無理に食料を作ろうとすると、山の上まで田畑にしなくてはならず、極めて非効率である。食料の値段も非常に高くなるであろう。それなら、無理に食料を増産するのではなく、自動車を大量に作って米国に売り、受け取った外貨で食料を輸入する方が遥かに得である。米国にとっても、広大な土地で楽に農作物が作れるので、これを輸出することで性能の良い日本車が手に入るなら、その方が良い。
こうして、自由貿易は、双方の国にとってメリットがあるので、経済学者は自由貿易を推奨する。ちなみに、双方の国にとってメリットがある、という点は重要である。どちらかの国だけにメリットがあるような条約は、(武力で威嚇されない限りは)締結されないからである。
余談であるが、日本の農家と米国の自動車メーカーにとっては、自由貿易は自分たちの売上を減少させるものであるから、反対する。そこで、政治的には自由貿易の実現は容易ではない。TPPの交渉も、各国の不得意産業(経済学では比較劣位産業と呼ぶ)が反対したため、難航した。最後は、得意産業(経済学では比較優位産業と呼ぶ)と経済学者が賛成したため、何とか交渉が妥結したが。

・保護貿易のメリットは、米国に関しては大
一般論としては、自由貿易は双方の利益である。だからこそ、米国も様々な自由貿易協定を締結しているわけである。しかし、米国は日本と異なり、広大な土地と豊富な資源と強い工業力を持っているため、鎖国をしても、それほど困らない。現在のように、巨額の貿易赤字を計上している場合、鎖国した方が米国のメリットになるという事も考え得る。
米国の輸入品で、米国が非常に苦手としている物は少ない。そこで、非常に苦手なもの以外の輸入を制限して、自国で生産することにすれば、米国の雇用は格段に増加する。一方で、外国が報復措置として対米輸入制限をかけようとしても、途上国にとっての米国製品は、自国で生産できない物も多いので、対米輸入はある程度は残るはずである。
そうなると、米国が保護貿易主義を採用した場合、諸外国がそれに報復したとしても、米国の貿易収支は黒字化する可能性が高い。つまり、現在の貿易赤字の分だけ、あるいはそれ以上に米国内の雇用が増え、景気が良くなる、というわけである。

・保護貿易のデメリットは、米国に関しては小
保護貿易のデメリットを唱える人は多い。たとえば米国の貴重な労働力は得意製品に用いるべきで、不得意製品に用いるのは勿体ない、という批判がある。しかし、これは労働力不足の時の議論であって、現在の米国には該当しない。現在の米国では、得意産業が雇用を増やそうと思えば失業者を雇えば良いのであって、わざわざ不得意産業の雇用を輸入品に奪わせる必要は無いからである。
雇用が増え、労働力が不足するようになったとしても、それによって米国の労働者の賃金が上昇して生活が改善すれば、「格差の縮小」という米国にとって非常に好ましい影響が期待されるところである。加えて、労働力不足と賃金上昇が米国企業の省力化投資を促すとすれば、米国経済が効率化するわけで、これも大変望ましい。
輸入制限をすると、国内の不得意産業が輸入品との競争を免れて、経営改善努力を怠るようになる、という批判も聞かれるが、これも当たらない。輸入品が消えた分の市場を狙って国産メーカー各社が熾烈な競争を繰り広げるであろうから、経営改善努力を怠る企業は淘汰されてしまうからである。
米国企業は、世界各国に工場を作り、そこから製品を輸入しているので、輸入制限はそうした企業に打撃を与える、という批判もあるが、これも当たらない。たとえば米国メーカーのメキシコ子会社が自動車を米国に輸出しているとする。米国がメキシコからの自動車の輸入を禁止した結果、当該子会社が苦境に立たされたとする。当該子会社はメキシコの会社であり、一義的にはメキシコ人労働者が解雇され、メキシコ政府の法人税収入が減る。米国にとっては、親会社の受け取る配当が減るが、それだけの事である。一方で、在米の親会社工場が売上が増え、雇用が増え、利益が増えるのであるから、差し引きすれば米国経済としては大きなメリットであろう。

・米国の保護主義は、日本経済への影響は小
米国が保護主義を採ると、米国以外の国は、多かれ少なかれ打撃を被る。日本も例外ではない。しかし、日本は昔から米国との貿易摩擦に悩まされて来たため、すでに米国の現地生産工場が多数立ち上がっているなど、免疫が出来ている。今回はじめて米国の保護主義の狙い撃ち対象となった中国やメキシコとは、受ける打撃の程度が全く異なるはずである。
今ひとつ、中国製品やメキシコ製品は品質より価格で勝負しているので、関税をかけられると売れ行きが壊滅的に減少するが、日本製品は価格より品質で勝負しているので、関税がかけられても、ある程度の売上は確保できるのである。プラザ合意以後の急激な円高でも輸出数量がそれほど減らず、貿易黒字も減らなかった事を思い出せば、関税への耐性は相当強いと考えておいて良さそうである。
一方で、米国の景気回復は、米国の消費増を経由して米国の輸入増をもたらす。しかも、米国人が贅沢をするようになれば、低価格低品質の途上国製品から高価格高品質の日本製品に需要がシフトしてくるので、日本製品には大きなメリットとなる。加えて、米国の金利上昇がドル高円安をもたらせば、米国の関税の一部は相殺されることになろう。

・米国の株高、ドル高は日本株にプラスの可能性
米国の保護主義の影響を上に記したが、これだけでは、差し引き日本経済にプラスとは言い切れないが、日本経済自体に対する影響が若干のマイナスであったとしても、日本株に対してはプラスの影響が出ることも充分考えられよう。
第一に、米国の株高が予想されるため、これとの連動で日本株が上昇する、という効果が見込まれる。第二に、ドル高円安が日本の株価を上昇させる力が働くであろう。
こうした効果を、理屈で説明することも不可能ではないが、実際には「市場参加者が、米国の株高やドル高円安を見ると日本株を買いたくなるから」という効果が最も大きそうである。何と言っても、原油価格が上昇すると、日本株が上がるのが株の世界である。エネルギーの大半を輸入に頼っている日本経済にとって、原油価格の上昇のメリットは殆ど皆無なのに、である。

・トランプ大統領が日本の株高要因か否かは、未知数
以上、米国の保護主義に限定して、日本の株価への影響を論じてみた。それ以外の要因をトータルで考える事が望ましいのであるが、現時点では時期尚早であろう。
米国の経済政策だけを見れば、米国内で景気刺激策が採られるであろうから、日本株に有利な条件は多いと思われるが、外交政策が今ひとつ見えて来ないと、何とも言い得ない。
米国が内向きになり、「米国第一なので、世界の警察官はやめる」と言うことになると、世界中で地域紛争が勃発して世界中が不安定になり、世界経済に与える影響も大きいであろうし、たとえばエネルギーの輸送ルートが脅かされるような事態になれば、日本の安全保障に極めて大きな懸念となろう。
問題は、米国がエネルギー等をほとんど自給出来るので、輸送ルートなどに関心を持たない可能性があることである。
未だ、日本株に強気になるのは時期尚早かも知れない。

(12月5日発行レポートから転載)

[12.09.更新]