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アナリストコラム

今年の景気も好調持続だがリスクには目配りが必要 -客員エコノミスト ~塚崎公義 教授-

(要旨)
■景気は過去最長の拡大を更新中
■景気は自分では方向を変えない
■国内要因の不安は小
■中国の減速の影響は限定的
■欧州の政治的混乱も影響は限定的
■米国のメインシナリオは成長持続
■リスクシナリオへの目配りは必要

(本文)
■景気は過去最長の拡大を更新中
景気は拡大を続けており、今月で過去最長の景気拡大を更新した模様である。景気拡大期間が長い事は、それ自体には余り価値はない。いざなぎ景気が「若者が全力ダッシュでマラソンを走ったら息が切れた」のに対し、今回は「高齢者がゆっくり散歩をしているので、移動時間の長さで若者に勝った」というだけの事だからである。

しかしそれでも、今回の景気回復持続には意味があると筆者は考えている。一つには、当然であるが「インフレも失業もない経済」が長く続く事は人々の幸せに直結するからである。

今ひとつは、バブル崩壊後の長期低迷期に凍り付いた人々のデフレマインドが融け始めるのに時間を要したからである。ここでデフレマインドとは、「今は良いが、どうせ遠からず悪い事が起きるだろう。何度も痛い目に遭ったから、ヌカ喜びは懲り懲りだ」といった人々の気持ちの事である。

今次局面で目立つのは、省力化投資の増加である。これまで企業は「今は労働力不足だが、暫く忙しさを我慢している間に景気は後退するだろうから、省力化投資は不要」と考えていたのが、「労働力不足は簡単には解決しそうもないから、省力化投資に踏み切る必要がある」と考えるようになったのであろう。

■景気は自分では方向を変えない
今後の景気を考える際に最も重要な事は、景気は自分では方向を変えない、という事である。「景気が拡大すれば物が売れるようになるので、企業は増産のために失業者を雇う。すると元失業者が給料をもらって消費をするから、物が一層よく売れる」「企業は増産のために工場新設の設備投資をする。それによって鉄やセメントや設備機械の需要が増える」といった具合である。

今次局面では、「企業が失業者を雇うと労働力不足になるから、企業の省力化投資が増加し、省力化のための機械設備等の需要が増える」という事が起きているわけである。

こうして景気は拡大期には好循環を続ける事になる。もちろん、景気が永遠に拡大し続ける事はなく、いつかは後退に向かうわけであるが、その要因は「財政金融政策」「海外からのショック」「バブルの崩壊」に大別される。

今回はバブルが崩壊したとは考えにくいので、財政金融政策と海外からのショックに絞って考えてみよう。

■国内要因の不安は小
景気が拡大を続けると、インフレ懸念が高まるので、政府日銀が「景気をわざと悪化させてインフレを止めよう」と考える事がある。もっとも、今の日本では全く起こりえないので、これについては考える必要は無かろう。

財政に関しては、消費税の増税が景気を腰折れさせる可能性があるが、これについても今回は可能性は低いであろう。増税幅が前回(5%→8%)より小さい上に、様々な景気対策が講じられるからである。

今回の特殊要因としては、東京オリンピック需要が剝げ落ちるタイミングである事が挙げられるが、これもさしたる懸念材料とは思われない。「建設労働者が不足しているから、工事の着工をオリンピックまで待っている」というプロジェクトが多そうだからである。

こうした事を考えると、国内要因で景気が腰折れすることは考えにくい。

■中国の減速の影響は限定的
米国は中国との経済戦争(実際には覇権を懸けた冷戦)を戦っている。米国が本気になれば米国の圧勝であろうから、中国の経済は対米輸出の激減等によって相当痛む事が予想される。

もっとも、日本経済への影響については、過度な懸念は不要であろう。米国が中国から輸入しているものを他の途上国から輸入するならば、中国の景気が落ち込んだ分だけその途上国の景気が拡大するので、日本はその途上国に輸出すれば良いことになるからである。

場合によっては、米国が中国から輸入している製品の一部が日本からの輸入に振り替わるかも知れない。そうなれば、日本は漁夫の利を得る事にもなりかねない。

今ひとつ、中国の景気が落ち込むと、国際的な資源価格が下落し、資源輸入国である日本には恩恵が及ぶかも知れない。

ちなみに、中国に進出している日本企業にとっては、中国景気の悪化は収益面での下押し要因であるし、そうした日本企業の株に投資する際には深刻な問題であろうが、それと日本の景気とは分けて考えたい。

日本企業が中国で儲けても、それが日本国内の雇用や設備投資等には直結しないのと同様、日本企業が中国で損をしても、それは日本の景気には直結しないのである。

■欧州の政治的混乱も影響は限定的
英国のEU離脱が迫っている。何らかの協定を締結すべきなのであろうが、交渉が難航しているため、このまま行くと合意なき離脱になりかねない。筆者はそのことの重大性をよく理解できていないが、各種報道などによると、「英国とEUの間の貿易に関税がかかるようになる」といった程度のようである。

英国とEUが自由貿易の恩恵を受けにくくなる事で、欧州の景気が若干悪化するかもしれないが、英国がEUから輸入していたものを日本からの輸入に振り替えるかも知れず、日本への影響は限定的であろう。

仮に筆者の想像を超えた所で深刻な影響が見込まれるのであれば、当事者同士で何とか交渉をまとめるであろうから、結局のところ深刻な影響は回避できると期待される。

その傍証として、ECB(欧州中央銀行)は金融緩和を縮小しつつある。仮に深刻な悪影響の可能性が見込まれるのであれば、緩和縮小を半年待つという選択肢もあるのに、そうしないのは、それほど深刻な影響は予想していないのであろう。

■米国のメインシナリオは成長持続
米国についても、市場関係者を中心として悲観的な見通しを述べる人が多いが、筆者はそれほど悲観していない。これも傍証としてFRB(米国の中央銀行)が利上げを続けていることが挙げられる。

米国には利上げを急ぐ差し迫った理由は見当たらないのであるから、仮に米国の景気後退が予想されるのであれば、利上げを少し遅らせて様子を見ることも可能なのに、である。

なお、景気弱気論の根拠として長短金利の逆転(実際には2年物と10年物の金利の接近)を挙げる株式市場参加者が多いが、これは奇妙である。過去にはインフレ抑制のために金融が引き締められた結果、長短金利が逆転し、そのあと景気が後退した事が何度もあったが、今回は事情が違うのだから、過去の例から将来を予想するのは危険である。

そうだとすると、長短金利の逆転は債券市場参加者が景気悪化を予想しているという事を示すに過ぎないから、「私の景気予想能力は債券市場参加者に劣るので、そちらを信じます。彼らはFRBより信頼できるので」と言っている事になるのである。筆者は債券市場参加者よりもFRBの方を信じるが。

■リスクシナリオへの目配りは必要以上のように、メインシナリオとしての今年の日本経済は、「拡大を続ける」で良いと思うが、過去1年間に海外で複数の「リスクの芽」が生じている事には留意が必要である。

第一は中国経済の急激な落ち込みである。カナダが中国人経営者を逮捕した報復として中国がカナダ人を逮捕したとも伝えられているが、それが本当であり、そうした動きが続くようであれば、中国にいる西側諸国のビジネスマンは本国に引き揚げる事になるかも知れず、中国にある西側の企業も早急に撤退する事になるかも知れない。

西側企業が中国の工場を閉じて他の途上国に工場を建てるのであれば、世界経済への影響は小さいが、中国工場の閉鎖が急だと代替して生産できる工場が建つまでの間、世界経済が混乱する可能性は否定できない。

英国のEU離脱、フランスの反政府デモについても、比較的深刻な事態に発展する事も考えられる。欧州と日本は幸い経済関係がそれほど深くないので、いずれにしても影響は限定的だと思われるが、目配りだけはしておきたい。

米国に関しても、「美人投票」的に事態が悪化する可能性はあろう。金融関係者が米国景気の悪化を予想して与信に慎重になれば、米国の景気が本当に悪化するかも知れないからである。

それを予想した金融関係者が「自分は米国景気に楽観的だが、他の金融関係者が与信を絞ると米国の景気が本当に悪くなるかも知れない。そうなると困るから、自分も与信を絞ろう」と考えて与信を絞るとすると、本当に景気が悪化する可能性もあろう。

リスクシナリオはあくまでリスクシナリオでり、過度な懸念は不要であろうが、一応は事態の推移に注目しておくべき1年になりそうだ。

(1月7日発行レポートから転載)

[01.11.更新]