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アナリストコラム

財政破綻を懸念する投資家が日本国債を買う理由 -客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2019年06月21日

(要旨)
・投資家の中にも日本政府破綻懸念あり
・破綻するか否かは資金繰りの問題
・投資家には他に選択肢が乏しい
・他の投資家が買うと政府は破綻しない
・外国人は日本国債を持ちたくない
・国債が自国通貨建てである事が重要

(本文)
・投資家の中にも日本政府破綻懸念あり
日本政府は、巨額の財政赤字を出し続けており、過去の赤字分を借金で賄っているため、借金の額は1100兆円という巨額に上っている。これは、税収等の18年分に相当する。

それを見ている投資家の中にも、将来的には日本政府は破産するのだろう、と考えている人は決して少なくない筈である。

売上高の18倍の借金を抱える会社があったら、誰も社債を買わないだろうから、その会社は倒産するであろう。それなのに、なぜ日本政府は破産しないのだろうか。

・破綻するか否かは資金繰りの問題
企業でも銀行でも政府でも、破綻するか否かは黒字赤字ではなく資金繰の問題である。資金繰に失敗して黒字倒産する企業もある一方で、赤字で債務超過でも銀行団が支えている企業は破綻せずに生き残る。

銀行も、健全な銀行が「あの銀行は危ない」という間違えた噂による取り付け騒ぎによって、本当に危なくなってしまう。噂が立つ前と後で銀行の健全性が変化したわけではないのに。

国も、それと同じである。皆が喜んで金を貸してくれている間は、いくら借金があっても破産しないのだ。

もっとも、国の場合は自国通貨で借金している間は中央銀行が紙幣を印刷すれば良いので、資金繰り難で倒産する事は無い、という違いがある。この点については、本稿では「日銀の紙幣印刷はハイパーインフレをもたらすので禁じ手」という事にしておくが。

・投資家には他に選択肢が乏しい
巨額の借金に喘ぐ企業が社債を出しても、投資家は買わないであろう。他に選択肢が豊富にあるからだ。しかし、日本国債を買わないとすると、投資家には他の選択肢が限られる。

日銀が政府の子会社である事を考えると、日銀に預けるとしても、現金(日本銀行券)で持つとしても、国債より安全だとは考えにくい。メガバンクへの預金も、国債より安全である筈がない。

信用リスクという点では米国債という選択肢があるが、今度は為替リスクを背負うことになる。

「明日以降の事は明日考えるとして、今日から明日まで手持ち資金をどう運用すべきか」と考えると、日本政府が明日までに破産する確率は決して高くないので、ドル安円高の為替リスクの方が大きいであろう。

したがって、投資家はとりあえず日本国債を購入して明日まで持つことになる。明日も全く同じことを考えるので、日本国債を売却せずに明後日まで保有し続けるだろう。その後も同様である。 

もちろん、日本人投資家が米国債を買わない、というわけではない。米国債の方が金利が高いし、ドル高になって為替差益が得られる可能性もあるからである。

しかし、よほど金利差が大きくならない限り、日本人投資家が米国債を日本国債より優先して買うことはないはずだ。だから日本政府は安泰なのだ。

・他の投資家が買うと政府は破綻しない
上記の理屈で投資家が日本国債を買うと、日本政府には資金が入るので破産しにくくなる。それを見た他の投資家が「他の投資家が買っているから、日本政府は当分の間は破産しないだろう」と考えることになる。

「遠い将来の事はわからないが、他の投資家の動向を見ていると、積極的に日本国債を買っているようなので、明日までに日本政府が破産する事はなさそうだ」とすべての投資家が考えて、すべての投資家が日本国債を「とりあえず明日まで持とう」とすれば、日本政府は破産しないのである。

こうして「投資家同士が互いに意図せず励まし合いながら日本政府を支えている」のが現在の姿なのである。

借金に苦しむ一般企業の社債の場合は、「他の投資家も買わないだろうから、あの会社は明日までに倒産する可能性が高い。自分も買わない」と投資家たちが考えるので、実際に倒産する可能性が高い。国債と社債は根本的に異なるものなのである。

・外国人は日本国債を持ちたくない
上記の論理からすると、外国人には日本国債を持つインセンティブが小さい。分散投資として、あるいは資金繰上の理由で短期国債を持つことはあり得ようが、「信用リスクも為替リスクも米国債より大きく、かつ金利が低い」のであるから、進んで大量に保有する事は考えにくい。

そこで、日本の経常収支が将来赤字になって外国から借金をしなければならなくなった時には、外貨建ての国債を発行する必要が出てくることになる。それは大変危険なことだ。

・国債が自国通貨建てである事が重要
ドル建てで日本国債を発行し、外国人投資家に購入してもらったとする。投資家たちは日本政府の信用リスクの高さに怯えているから、何かあったらすぐに売却しようと考えているはずだ。

国債には期限があるから、売却されても直ちに日本政府が困ることはないが、満期に借り換え国債が発行できないから償還しなければならないだろう。

最初の償還は、問題ないはずだ。日本政府がドルを買って償還に応じれば良いからだ。しかし、そのドル買いがドル高を招くので、二度目の償還の負担は少し重くなるだろう。

しかも、2度目の償還のためのドル買いもドル高を招くので、3度目の償還はさらに辛くなるだろう。こうして、最後の償還は極めて辛いものになってしまうのである。

政府が自国通貨で借金できる事の有難さは、外貨で借りた場合の苦労を考えることで実感できよう。

余談だが、自国通貨で借りれば楽だからと言って、いくらでも借りて良いという事にはならない。さすがの筆者もMMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)ほど能天気ではない。その点については拙稿 https://column.ifis.co.jp/toshicolumn/tiw-tsukasaki/105267 を御参照いただければ幸いである。

(6月17日発行レポートから転載)

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