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悪い円安? -Perverse Boy-

2014年09月12日

ドル/円相場が6年ぶりに107円を超えた円安になっています。2012年1月の1ドル75円を底に円安トレンドは続いており、この間ドルに対する円の価値が約43%下落したわけです。為替相場は森羅万象を織込むと言われており、あまりにも多くの要因がからんで動くので、この場で今回の円安の理由に言及することは避けます。

一方で同じ期間、日経平均株価は81%程度上昇しています。株価上昇の要因も様々であり円安もその一つの要因ですが、決して円安だけが株価を上昇させたわけではないことも事実です。ただ円安が輸出企業の業績を劇的に改善させたことは確かであり、それが株価押し上げの大きな要因になったことは間違いないところです。

これまで日本市場では、「円安⇒株高という単純な図式」が成り立ってきたこともあり、市場は円安を好感する傾向にあります。それは日本は輸出立国であり貿易黒字こそが日本経済を支えていると信じている人が多いことによるのかもしれません。しかし果たして日本は本当に輸出立国なのでしょうか。

2012年の名目国内総生産(名目GDP)の内訳を見てみましょう。名目GDPの総額474.9兆円に対して主な項目の構成比率(寄与度)は、民間消費が58%、政府最終消費市支出が19%、民間企業設備が13%に対して純輸出(輸出−輸入)はマイナス2%です。マクロ的にみると日本は今は輸出立国であるとは言えません。それでは過去はどうだったのでしょうか。

結論から申し上げると、いわゆる高度成長期は貿易赤字だったのに対して失われた20年は貿易黒字だったのです。1960年以降の名目GDPへの貿易収支の寄与度(構成割合)はほとんど変化がなく、わずかなマイナスからわずかなプラスの間で推移しています。バブル期の初期の1986年から1987年に3%を超えたことがありましたが、それ以降趨勢的にプラス寄与度が低下してきました。経済低迷期の失われた20年では、輸入が減少したため結果的に貿易収支がプラスに寄与しました。

純輸出の累計を見てみると、1950年から1980年の総計はマイナス1兆円の貿易赤字、一方で1981年から2012年までの総計はプラス260兆円の貿易黒字となっています。これは何を表しているかというと、貿易収支が黒字になれば名目GDP伸び率がプラスになるという図式は昔も今も成り立っていないということです。日本は輸出立国であるということは実は幻想にしか過ぎなかったのです。

為替相場とは2国間の通貨の交換比率ですから、2国間の相対的なマネーの量(もそしくはその伸び率が)が相場の大きな決定要因になります。相対的にマネーの量が少ない国の通貨の価値は高くなり、逆に相対的にマネーの量が多い通貨の価値は安くなるということを示唆します。現在日本では量的金融緩和が実施されており、更に追加的な緩和策が取られる可能性が高い状況です。一方で米国ではこの10月にも量的緩和が終了する見込みです。昨今の円安傾向の強まりは、それを受けたものであるとも言えます。

8月の日本の企業物価指数では輸出物価が+2.7%(前年同月比)だったのに対して、輸入物価は+4.5%(同)となりました。現在、素材やエネルギー価格が国際的に安定していますが、一旦それらが上昇に転じると、円安と相まって、企業業績に大きな負のインパクトを与えることになります。また輸入物価の上昇は消費者の購買力を低下させるので消費が落ち込むということも考えられます。
 
円安は確かに一部の輸出企業を利することになりますが、それはマクロ的にみれば微々たるものである一方、趨勢的な円安は、企業のコスト高や消費者の購買力低下を惹起することになり、結果的に国全体の力を弱めていく「悪い円安」になる可能性があるということを意識すべき時期にきているように思います。
 
Written by Perverse Boy

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