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和菓子の日 -Cranberry Jam-

2013年06月14日

数年前のちょうど今頃、花菖蒲がきれいな時期に明治神宮の御苑を訪れたところ、神宮境内に何やら行列ができていました。行列の先には和菓子職人の方々。何と和菓子の実演・無料配布をしていたのです。花より団子!と列に並んで待つこと10分、作りたての練り切りが配られました。練り切りは「花菖蒲の花弁ひとひら」を象られていて、色は花弁の付け根から縁にかけて白から薄紫色へほのかに浮かび上がるグラデーション、さらに淡い黄色の斑紋まで丁寧に表現されています。私の前に並んでいた外国人の老夫婦が「これはベリージャパニーズなエディブルアートだ!」と感嘆していたので、少し嬉しくなりました。作りたての和菓子と冷たい緑茶まで頂いて、思いがけずほっこりと癒されました。

和菓子はその美味しさだけでなく、見た目の美しさでも楽しませてくれます。茶の湯や公家文化と結び付いたことで、その芸術性が花開きました。金平糖はポルトガルから伝わった南蛮由来の菓子ですが、元来の素朴で無骨なコンフェイトからは似ても似つかないほど美しく繊細に進化しました。和菓子屋さんに入ると、何を表しているお菓子なのかを想像する楽しみもありますし、何が売られているかで季節の到来を感じることもできます。春には緑の息吹や桜など華やいだ雰囲気、夏には透き通った寒天で涼しげな清流の様子、秋には染まりゆくもみじの葉、冬には寒椿や蕪など、お菓子の色や形が四季折々の情景を映し出します。欧米にはイースターやクリスマスなど宗教的なお祭りのためのお菓子はありますが、季節を表現するお菓子というものはあまり無いそうです。明治神宮で花菖蒲の練り切りを手にしたとき、和菓子の神髄はその神業的な季節感だと思いました。

明後日6月16日は「和菓子の日」です。承和15年(西暦848年)、疫病が蔓延したことから、仁明天皇が6月16日に菓子や餅を神前に供え疫病退散を祈願して、元号を嘉祥と改めたことに始まると伝えられています。「嘉祥の祝」は後醍醐天皇の御代から室町時代へと受け継がれてきましたが、江戸時代になると健康と招福を願う行事として、この日に嘉定通宝16枚で菓子を求めて食べる風習が庶民のあいだにも広がり「嘉祥喰」と言われ、欠かせない年中行事となりました。その「嘉祥の祝」を現代に甦らせたのが「和菓子の日」です。明治神宮では、10時にご神前にお供えした後、11時と13時に無料配布が行われます。今年も健康と招福を願いつつ、和菓子を美味しく頂こうと思います。


Written by Cranberry Jam

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